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品質保証とは?定義やプロセス、マニュアルの作り方まで解説

製品やサービスの複雑化が進む昨今、品質保証(QA)の重要性はかつてないほど高まっています。不具合やセキュリティリスクに対する顧客や社会の許容度が低下するなか、信頼される製品・サービスを提供し続けるためには、戦略的な品質保証が不可欠となっています。
本記事では、品質保証の定義や実践プロセス、よく発生する問題と解決策などを解説します。
目次
「品質保証」とは?基本概念とその重要性
ソフトウェア開発や製品づくりの現場では、品質がビジネスの成否を左右します。
開発プロセス全体を通じて品質を確保するための「品質保証」について、まずはその定義や役割を解説します。
品質保証の定義
品質保証(QA)とは、製品やサービスの品質が、顧客やユーザーの要求を満たしていることを保証するための体系的な取り組みのことです。
ISO(国際標準化機構)の定義では「品質要求事項が満たされるという確信を与えることに焦点を合わせた品質マネジメントの一部」とされていますが、簡単にいえば「高品質な成果物を生み出すための仕組み作り」を意味します。
品質保証の特徴は、最終チェック工程に限らず、企画・設計から開発、テスト、リリース、そして運用・保守まで、製品ライフサイクルの全工程を通じて品質を作り込むという考え方にあります。単に検査で不具合品を取り除くだけではなく、品質を磨くためのプロセス全体を設計し、継続的に改善していく活動が品質保証の在り方といえます。
品質保証が果たす役割
品質保証の主な役割は以下の3点に集約されます。
1. 上流工程からの早期関与
- 要件定義や設計段階から品質の視点で参画
- 仕様の曖昧さやリスクを事前に検知
- 後工程での手戻りを防ぎ、開発全体の効率を向上
2. テスト戦略の設計と実施
- 「何を」「なぜ」「どのように」テストするかを明確に定義
- テスト項目の優先順位付けと最適なテスト手法の選定
- テスト結果の評価に基づく継続的な改善活動
3. 組織全体の品質文化醸成
- 品質目標の設定とKPIによる進捗管理
- 品質リスクの特定と対策の立案
- 品質を一過性のゴールではなく継続的に育てる価値として浸透
品質保証部門はこれらの活動を通じて、単に「バグを見つける」だけでなく、「高品質な製品を生み出す仕組み」を組織内に構築する役割を担っています。
品質保証(QA)と品質管理(QC)の違い

品質保証(QA)と近い文脈で使われる用語に「品質管理(QC)」があります。両者は似ているようで異なる概念です。
【品質保証(QA)と品質管理(QC)の定義】
品質保証(QA: Quality Assurance)
プロセス全体の設計・改善を通じて品質を「作り込む」活動。問題の未然防止を重視し、開発の初期段階から関与する
品質管理(QC: Quality Control)
製品やサービスが品質基準を満たしているかを「確認・評価」する活動。主にリリース前の検査や検出された不具合の分析・修正などを担当するつまり、QAは『品質確保の仕組みづくり』を、QCは『品質の評価・管理』を指す概念だといえます。
ただし、QAとQCは対立するものではなく、品質を高めるために相互に連携しながら機能するものであり、製品の品質を維持するには、両方のアプローチが必要です。
適切な品質保証によって得られるメリット

品質保証の実践は、企業活動全体に多くの利益をもたらします。ここでは、主要な3つのメリットを見ていきましょう。
1. コスト削減
品質保証によって得られるメリットの一つが、コストの削減です。
開発の初期段階で不具合を早期に発見・対応することで、後工程での修正にかかるコストを大幅に抑えることができます。バグや仕様漏れが開発終盤で発覚すると、修正にはより多くの人手と時間が必要となり、納期や予算の超過にもつながります。一方で、計画的な品質保証を実践すれば、こうしたリスクを最小限に抑えることができます。
2. 製品やサービスの信頼性向上
品質保証によってソフトウェアの品質を安定させることで、ブランドに対する信頼性は高まります。
プロダクトに対するユーザーの印象は、一度の使用で大きく左右されるものです。そのため、企業のブランドを維持するためには、高品質な体験を提供し続けることが欠かせません。また、不具合の発生頻度が減少すれば、顧客の不満やクレームが減り、結果として企業への信頼や継続利用の意向を高めることにもつながります。
3. ユーザー満足度の向上
高品質な製品やサービスは、ユーザー体験(UX)を根本から向上させます。
安定して動作するアプリや直感的に使えるインターフェースがあれば、ユーザーはストレスなく製品を利用でき、自然と満足度も高まります。そうしたポジティブな体験は、リピーターの獲得や口コミによる拡散にもつながり、結果的に事業の成長を支える原動力となります。
品質保証の実践プロセス

目標に合った品質保証を実践するには、計画的なアプローチが求められます。ここでは、品質保証の流れを5つのステップに分けながら、それぞれのポイントを解説します。
1. 品質目標の設定
まずは求められる品質レベルを定義し、達成すべき品質基準と評価指標(KPI)を設定します。このとき、「○○機能は1秒以内に応答する」「バグの重大度Aはリリース前にゼロにする」など、モジュールや機能ごとに品質の期待値を明文化し、開発チームと共有することで、認識の相違を防ぐことができます。
計画段階では、想定されるリスクの洗い出しと分析も欠かせません。例えば「支払い機能が正常に動作しない」「大量アクセス時にシステムが遅くなる」といった具体的なリスクを洗い出し、「発生したらどれだけ深刻か」「どのくらい起こりやすいか」を評価しながら、リスク分析と対応の優先順位づけをします。このように、深刻なリスクから対策を講じることで、プロジェクトの成功率は高められます。
2. テスト設計
品質目標を設定できたら、次にその目標を達成するための具体的な検証方法を設計します。この段階では以下の3つの要素を明確にします。
テスト計画の詳細化
「どのタイミングで」「誰が」「何を」テストするかを明確に定義します。また、テストの対象範囲とスケジュールを策定し、必要な人員・環境・ツールなどのリソース計画も練ります。
テスト手法の選定
プロジェクトの特性や目的に応じて、以下のような手法から最適な組み合わせを選択します。
- ソフトウェアの内部構造を考慮せず、入力に対して仕様通りの出力(振る舞い)が得られるかを確認する「ブラックボックステスト」
- プログラムの内部コードや構造に着目し、命令網羅や分岐網羅などの観点で処理経路が正しく動作するかを検証する「ホワイトボックステスト」
- その他「パフォーマンステスト」「互換性テスト」「ユーザビリティテスト」など……
セキュリティテストの設計
脆弱性スキャンや侵入テストなどの計画を立て、認証・認可(権限)周りの検証方法を決定します。このとき、製品特性に応じたセキュリティリスクへの対応策も検討します。
3. コードレビュー・テストの実施
設計に基づき、実際に品質保証活動を進めていきます。
このフェーズでまず行うのがコードレビューです。開発者同士でコードを相互にチェックすることで、仕様漏れや潜在的な不具合を早期に発見することができます。
続いて、テスト計画に基づき単体テスト、結合テスト、システムテストなどを実施します。単体テストでは各機能が意図通りに動作するかを、結合テストでは機能間の連携に問題がないかを確認します。
また、セキュリティ面の品質を担保するため、セキュリティテストや脆弱性診断も実施します。攻撃シナリオを想定したテストや既知の脆弱性に対するスキャンをすることで、重大なリスクをリリース前に取り除くことができます。
4. 評価とKPI測定(品質の見える化)
次に、テストの結果を評価し、品質保証活動の成果を定量的に把握します。
代表的な評価指標には、以下のようなものがあります。
- バグの発生率や重大度
- テストカバレッジ(網羅率)
- バグ修正対応の所要時間リリース前後のバグ検出率
これらをKPIとしてモニタリングすることで、現状の品質レベルを客観的に把握し、目標達成度を評価できます。また、収集した品質データを分析し、「どの段階で品質リスクが高まっているか」「どのような改善施策が有効だったか」などの情報を整理・分析していきます。
5. フィードバックを活かした品質向上
最後に、評価で得られたデータをもとに具体的な改善活動を実行していきます。改善活動は主に次の2つの視点から進めます。
1. 開発プロセスの改善
テスト結果やKPIの分析から見えてきた課題をもとに、テスト計画や品質基準の見直しを行います。「バグが特定の工程で多発していないか」「テスト範囲に不足はなかったか」など、プロセス上の弱点を特定し、次のプロジェクトやサイクルに反映させます。
2. ユーザー視点の取り込み
内部の技術的な指標だけでなく、実際のユーザーからのフィードバックも重要な改善材料です。アプリの使用状況データや顧客サポートへの問い合わせ内容など、実際の利用状況から、開発時に見落としがちな課題を発見し、対応します。
この2つの視点からの継続的な改善により、品質保証の精度と効率を段階的に向上させていきます。
品質保証で起こりがちな問題とその解決策

どんなに理想的な品質保証プロセスを描いても、現場では予想外の壁にぶつかるものです。ここでは、多くの企業が直面する現実的な課題と、それを乗り越えるためのヒントをご紹介します。
リソース不足(人員・時間・予算)
品質保証において直面しやすい課題の一つが、十分なテストリソースの確保です。開発スケジュールがひっ迫すると、「まずは機能を完成させよう」といった考えから、テスト工程にかける時間が短縮されやすくなります。その結果、十分な検証なしに製品がリリースされ、のちに重大な問題が発見されるという事態を招きます。
限られたリソースのなかで効果的な品質保証を実現するためには、次の2つのアプローチが有効です。
1. テストの優先順位付け
以下のような観点から各機能のリスクや重要度を評価し、「どこに重点を置いてテストするか」を決定する
- ユーザー影響度(決済機能など重要な操作)
- 変更リスク(新規開発・大幅変更箇所)
- ビジネス重要度(収益に直結する機能)
2. 品質確認ポイントの分散
検証を開発終盤だけでなく、プロセス全体に分散させる
【具体例】
- 開発の各マイルストーンにチェックポイントを設置
- 開発者によるセルフチェックの導入
- コードレビューに品質の観点を追加
リソースが限られていても、「何をテストするか」「いつテストするか」の工夫次第で、効果的な品質保証は可能です。まずは小さな改善から着手し、徐々に体制を強化していきましょう。
開発チームとの連携不足
品質保証は、開発とQAが密に連携してこそ効果を発揮します。しかし、部門間の壁や双方の役割の違いから、情報共有やコミュニケーションが不足し、品質向上の妨げになることも少なくありません。
このような問題に対しては、以下のような工夫が有効です。
- 開発とQAが日常的に情報共有できる環境の整備(朝会・チャット・ドキュメントの共有)
- バグ報告だけでなく、品質課題のフィードバックを開発初期に反映させる文化づくり
- QAが仕様検討や設計レビューにも関与する体制の構築
こうした取り組みにより、開発チームとQAチームの壁を取り払い、一体となって品質向上に取り組める環境が構築できます。双方の知見を早期から共有することで、より効率的で高品質な開発プロセスを実現できるでしょう。
品質保証マニュアルの作成と活用
品質保証を着実に実施し、チーム全体で一貫した品質意識を共有するには、業務の標準化が不可欠です。そこで活用されるのが「品質保証マニュアル」です。
品質保証マニュアルを作成する目的とその役割
品質保証マニュアルとは、品質に関する基準やプロセス、判断基準を明文化したドキュメントです。その主な目的は品質保証の「属人化」を防ぐことにあります。マニュアルにより統一されたルールや手順を定義すれば、担当者が変わっても一貫した品質を維持でき、特定のエキスパートに依存せずチーム全体で品質を担保できます。
また、マニュアルは新規メンバーの教育にも役立ちます。品質保証に関する基本的な考え方や業務の進め方をあらかじめ文書化しておくことで、OJTや研修時の負担が軽減されるうえに、ナレッジ共有の効率も高まります。このように、マニュアル作成は品質保証活動の標準化と効率化に貢献します。
品質保証マニュアル作成時のポイント
品質保証マニュアルは、計画→構成設計→執筆→レビュー→更新という流れで作成を進めます。
効果的なマニュアルを作るには、内容の適切性と読みやすさの両方を確保できるようにしましょう。
内容の適切性
- 品質基準、テストプロセス、報告ルール、成果物の管理方法を過不足なく含める
- チームの実態に即した実践的な情報を盛り込む
読みやすさ
- 「誰が読んでも理解できる書き方」を意識する
- 図表を効果的に活用し、視覚的な理解を助ける
- 具体例を示すことで抽象的な概念を分かりやすく説明する
- 簡潔な表現を心がけ、読み手の負担を軽減する
マニュアルは一度作成して終わりではありません。品質保証のプロセスや体制は時間とともに変化するため、マニュアルも定期的に見直し・アップデートすることが大切です。
品質保証におけるコスト最適化の考え方
品質保証体制が整ったとしても、それを維持・運用するにはコストがかかります。そこで次に、コストと品質のバランスを取る方法について考えていきましょう。
ここでは、品質保証にかかる代表的なコスト項目と、それらを最適化しながら成果を出す方法について解説します。
品質保証にかかるコストの種類と内訳
品質保証には、複数のコスト要素が存在します。その構成比はプロジェクトの規模や特性によって変わりますが、主なコスト項目は以下のとおりです。
人件費
QAエンジニア、テスト担当者、開発者の品質保証関連作業の工数。全体コストの中で最大の割合を占める。品質維持の中核となる投資だが、効率化の余地も大きい
ツールと環境のコスト
テスト管理ツール、バグトラッキングシステム、CI/CDパイプラインの導入・運用費用。テスト環境の構築・維持費用も含む。自動化推進により長期的な効率化が可能
品質トラブル対応コスト
リリース後の不具合修正、顧客対応、企業信用の失墜による間接的損失。事前の品質保証投資で大幅に削減できる「隠れたコスト」
外部サービス利用コスト
専門テスト会社への委託費用。セキュリティテストや負荷テストなど専門性の高い領域で効果的。内製と外注のバランスが重要
これらのコスト要素を適切にバランスさせることが重要です。品質保証への投資は単なる出費ではなく、リリース後のトラブル防止や企業信頼性向上につながる戦略的投資として捉えるべきでしょう。
「コスト削減」と「品質維持」を両立するには
品質保証にかかるコストを最小限に抑えつつ必要な品質を保つには、「コストをかけない」ではなく「コストの使い方を工夫する」という考え方が重要です。
以下に、代表的なアプローチを紹介します。
テスト自動化による工数削減
単体テストや回帰テストなど、繰り返し実施するテストは自動化との相性がよく、テスト実施にかかる人的リソースを大幅に削減できる。加えて、CI/CDパイプラインと連携することで、より効率的な継続的テストが可能に
リスクベースドテスト
すべての機能を均等にテストするのではなく、影響範囲の大きい機能やユーザーへの影響が大きい部分にテストリソースを集中させる方法。これによって、限られた時間や人員でも、リスクを最小限に抑える効果的な品質保証を実現できる
内製と外注のバランスの見直し
日常的なテストやリリース検証は社内で、専門的な負荷テストやセキュリティテストは外部に委託するなど、役割分担を明確にすることでコストの最適化につなげる。とくに、短期間でのテスト実施や人的リソース不足に悩むプロジェクトでは、外部テスト専門企業の活用が費用対効果の高い選択肢となる
このように、品質保証のコストは「削減」ではなく「最適化」を目指すことが大切です。品質を犠牲にせず効率的に成果を出すための仕組みやパートナーを選択することが、長期的には企業の競争力につながります。
品質保証の実践に向けて
単にテストを実施するだけではなく、不具合の発生を防止するための仕組みを整えることで、開発全体の効率を向上させつつ、品質の高いプロダクトを市場に送り出すことができます。
品質保証にはコストがかかりますが、リリース後のトラブル対応や顧客対応にかかる隠れたコストを削減するための先行投資ともいえます。
一方で、品質保証の重要性を認識しつつも、充分なリソースを割けていない企業も多いでしょう。
そういった場合には、外部のテスト専門サービスの活用も効果的な選択肢です。リリース前の負荷テストやセキュリティ診断、テスト設計の見直しなど、専門知識が求められる工程は外部の力を借りることで対応することもできます。こうした対応により、確実性とスピードの両立が可能になります。
社内では品質保証の「戦略と判断」を担い、実行の一部を外注するというハイブリッド型の体制も、近年では広く採用されています。
AGESTでは、第三者視点によるテスト設計・実施から、上流工程でのQAコンサルティング、セキュリティ診断、テスト自動化まで、幅広いニーズに対応したテストソリューションをご提供しています。
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