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ソフトウェアテストとは?目的・種類・工程など全体像を解説

ソフトウェア開発における品質への意識が高まるなか、ソフトウェアテストは不可欠な工程となっています。しかし、多くのエンジニアがテストの重要性を理解しながらも、その目的や種類、具体的な進め方について体系的な知識を持ち合わせていないのが現状です。
本記事では、ソフトウェアテストの定義から実践的な工程、成果を測るための評価指標まで、現場で役立つ基礎知識を解説します。
目次
ソフトウェアテストとは
製品の品質を担保するうえで欠かせないソフトウェアテスト。まずは、その定義や重要性について解説します。
ソフトウェアテストの定義
ソフトウェアテストとは、「開発したソフトウェアが仕様通りに動作するか」「期待される品質を満たしているか」を確認する一連の作業です。例えば、「データ入力に対して正しい結果が出るか」や「想定外の操作をしても問題なく動くかどうか」などを確認します。
「ソフトウェアテスト=バグを探すこと」と考える人も多くいますが、実際にはバグの発見に加えて、「設計段階で定めた要件を満たしているか」「顧客のニーズを満たす製品に仕上がっているか」などを体系的かつ網羅的に検証・評価するプロセスを意味します。
ソフトウェアテストが重視される理由
不具合が残った状態で製品がリリースされると、ユーザー体験の低下や業務停止、信頼の損失、最悪の場合は損害賠償などの重大な問題に発展する可能性があります。
過去には大規模自治体の証明書交付システムにおいて、想定外の同時処理が原因で他人の情報が誤って印刷されるトラブルが発生したケースもありました。これは高負荷時の動作確認や連携処理に対するテストが不十分だったことによって引き起こされた問題だとされています。
こうした事例からもわかるように、ソフトウェアテストはトラブルを未然に防ぎながら製品や企業の品質と信頼性を確保するために欠かせない取り組みであり、ビジネスの安定と成長につながる投資でもあります。
ソフトウェアテストの目的

ソフトウェアテストの最大の目的は、「ソフトウェアの品質を確保し、ユーザーが安心して使える状態に仕上げること」です。単にバグを見つける作業と思われがちですが、実際にはユーザー体験の向上や開発全体の効率化、セキュリティリスクの軽減など、その目的は多岐にわたります。ここでは、主要な4つの目的について解説します。
バグの検出と品質向上
不具合をリリース前に発見できれば、修正コストも影響範囲も最小限に抑えられます。一方で、リリース後に問題が見つかった場合は対応の難しさや影響が格段に大きくなります。
十分なテストを実施すれば、致命的な問題を事前に防ぎ、企業の信頼、ブランドイメージを守ることができます。ユーザーに高品質な製品を届けることこそ、ソフトウェアテストの最も重要なゴールです。
ユーザー体験の向上
ソフトウェアテストでは、「仕様通りに作用するか」に加えて、「ユーザーにとって快適であるか」「ストレスなく操作できるか」といった観点からも評価を行います。
機能上の不具合がなかったとしても、表示の乱れや著しい動作遅延がある場合、ユーザーの離脱につながります。こうしたUI/UX面のテストを適切に行いリリース前に改善することで、顧客満足度を高めることができます。
コスト削減と開発の効率化
ソフトウェア開発では、開発プロセスの後半になるほどバグ修正のコストが増大する傾向があります。例えば、設計段階で発見できる問題がテスト段階まで見過ごされた場合、修正コストは数倍に、リリース後に発見されると数十倍~百倍以上になるともいわれています。
早期からテストを実施し、各開発段階で問題を見つけて修正する体制を整えることで、全体的な開発コストを大幅に削減できる可能性があります。また、手戻りの減少によって開発スケジュールの遅延も防げるため、開発効率の向上にもつなげられます。
セキュリティリスクの軽減
近年、サイバー攻撃は件数の増加と手口の高度化が進んでいます。特にインターネットに接続されたWebアプリケーションや業務システムは、攻撃者の標的になりやすい傾向があります。セキュリティの脆弱性を見過ごしたままソフトウェアをリリースすると、情報漏洩やシステム停止といった重大インシデントを引き起こす危険性があります。
ソフトウェアテストの種類の一つであるセキュリティテストは、こうしたリスクを事前に特定し、対処するための重要なプロセスです。このテストでは、「SQLインジェクション(データベースへの不正な命令挿入)」や「クロスサイトスクリプティング(Webページでの悪意あるスクリプト実行)」といった代表的な攻撃手法への耐性を検証します。適切なセキュリティテストを実施することで、安全性の高いソフトウェアの提供が可能となります。
ソフトウェアテストの主な種類
ソフトウェアテストには、目的やタイミング、実施方法に応じて多様な種類があります。ここでは代表的なテストの分類を整理し、それぞれの目的や内容を解説します。
機能テストと非機能テスト

ソフトウェアテストは実施の目的に応じて「機能テスト」と「非機能テスト」の2種類に分けることができます。
機能テスト
機能テストは、「ソフトウェアが設計された通りに機能しているか」を確認するためのテストです。ログイン処理や検索機能、決済処理など、ユーザーが操作する機能単位で動作を検証します。
主に「ブラックボックステスト」と呼ばれる方法が使われ、内部のコード構造には踏み込まず、入力に対して仕様通りの出力がされるかを確認します。
非機能テスト
非機能テストは、機能の正しさとは別に、「使いやすさ(ユーザビリティ)」「速さ(パフォーマンス)」「安全性(セキュリティ)」などを確認するテストです。機能テストだけでは見えない、ユーザー体験やパフォーマンスに直結する部分を検証します。
代表的な例としては以下のようなものがあります。
- パフォーマンステスト(処理速度、応答時間)
- セキュリティテスト(不正アクセス耐性)
- ユーザビリティテスト(UI/UXの評価)
機能自体が正しく作用したとしても、処理速度が極端に遅かったり、外部からの攻撃に対してひどく脆弱であったりした場合、商品としては成り立ちません。機能テストと非機能テストの両方が行われることで、製品の品質を保証することができるのです。
手動テストと自動テスト
テストの実施方法には「手動テスト」と「自動テスト」の主に2種類があります。
手動テスト
テスト担当者が実際に画面を操作しながら確認する方法です。UI/UXのように直感が求められる領域や、自動化の必要がない一回限りのテストに適しています。
自動テスト
あらかじめ用意したテストケースをツールで繰り返し実行する手法です。後述する単体テストや回帰テストなど、頻繁に発生するかつ外部要因に左右されづらいテストに向いています。CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)のパイプラインに自動テストを組み込むことで、品質を確保しながら迅速に開発・リリースを行うことが可能になります。
テストの実施タイミングによる分類
開発のフェーズに応じて、実施すべきテストの種類は変わります。モジュール単位、システム全体など、それぞれのテストを適切なタイミングで行うことで、段階的に品質を確保することができます。
単体テスト
新しくコードを実装した際などに、個々のモジュールが仕様通りに動作するかを確認するテストを指します。開発者自身がコード単位で実施するケースが多く、コードの中身を確認しながら行うホワイトボックステストの手法がよく用いられます。
結合テスト
すべてのモジュールの単体テストが完了したのち、複数のモジュールが正しく連携して動作するかを検証します。例えば、ECアプリにおいてユーザー情報の登録処理と注文情報の管理機能の間でデータの受け渡しが正確に行われるかなどの確認を行います。
システムテスト
結合テストが一通り終了した後、ソフトウェア全体として機能が問題なく動作するかを確認します。要件定義に沿った最終的な完成形としての振る舞いをチェックする工程です。
ユーザー受け入れテスト(UAT)
本番リリース前、実際のユーザー環境を想定して、エンドユーザーや発注側が製品を試験します。業務要件に合っているか、期待した結果が得られるかを最終確認します。
回帰テスト
新機能の実装やバグ修正の後、既存機能に影響がないことを確認するテストです。機能追加やバグ修正の影響を確認するために、定期的な実施が求められます。
ITシステムに特化したテスト(セキュリティ、API、負荷テストなど)
近年は、クラウド環境や複雑な外部連携を含むシステムが増えており、それに伴い特化型のテストが必要とされるケースも多くなっています。
重要性が高まっているテストの具体例としては、次の3つが挙げられます。
- APIテスト
外部システムとの通信が正しく行われるかを確認するテスト - 負荷テスト
想定以上のアクセスがあった際の挙動を検証するテスト - セキュリティテスト
外部からの攻撃や不正操作への耐性を確認するテスト
このようなテストを実施することで、複雑な外部連携にも耐えうる実用的なソフトウェアを提供することができます。
ソフトウェアテストの工程

ソフトウェアテストには、各工程ごとに明確な目的と作業内容があり、順を追って実施することでソフトウェアの品質向上や開発効率の改善が実現します。以下では、一般的なテスト工程の流れと工程ごとに行うべき作業内容を解説します。
1. 要件定義とテスト計画
開発の初期段階で、テスト計画を策定します。この段階ではテストの方針と範囲を決定し、対象機能、テスト環境、必要リソース、スケジュールを明確化します。また、正常系・異常系の操作パターンを洗い出し、要件定義や仕様書から必要情報を整理して関係者間で認識を共有します。しっかりとした計画立案により、後工程での抜け漏れを防止できます。
2. テストの設計と実施
テスト計画に基づき、具体的なテスト設計を行います。具体的には、「どのような操作・入力を行い」「どんな結果が期待されるか」を明文化し、テストケースやテスト項目書を作成します。この際、「境界値分析」「同値分割」「状態遷移テスト」などの技法を活用して論理的なテスト設計を心がけます。
実施段階ではテスト項目に沿って順次検証を進めます。不具合発見時には再現手順とエビデンスを添えて報告し、修正後に再テストを実施します。このサイクルを繰り返し、品質を段階的に向上させていきます。
3. テスト結果の評価と改善
テスト完了後は結果を評価し、プロセス改善につなげます。「テスト完了報告書」や「不具合分析レポート」を作成し、テスト設計の妥当性や想定外の問題の有無を検証します。発見された課題は次回のテストプロセスに反映させることで、テストプロセス自体の品質も継続的に向上していきます。このようなフィードバックループを確立することが、長期的な品質向上の鍵となります。
テスト品質の測定と評価手法
ソフトウェアテストの成果を正しく判断し、次の開発や改善に活かすには「評価」と「検証」という視点が欠かせません。テストを実施した結果、どこまで品質が担保されているのか、要件を満たしているのかを分析することで、リリースの可否判断や今後の品質改善施策につなげることができます。ここでは、初心者が押さえておくべき評価と検証の基本的な考え方と、代表的な手法について解説します。
検証と妥当性確認の重要性
ソフトウェアの品質を判断する際に使われる「検証(Verification)」と「妥当性確認(Validation)」は、似ているようで異なる概念です。
検証とは、「作ったものが設計や仕様書通りにできているか」をチェックすることで、例えば「ボタンを押すと正しく画面が切り替わるか」「カートに商品を追加するとカートの中の金額が変わるか」といった確認が該当します。
一方、妥当性確認は「その設計自体が、ユーザーのニーズや業務要件に合っているか」を判断するもので、「使いやすいか」「現場で本当に役立つか」といった視点から検討します。
テストにおいては、この両方の視点を持つことで「作った通りに動くか」だけでなく「使えるものかどうか」までを網羅できるのです。
テストの成功基準とは?
テストの完了=品質保証とは限りません。一通りのテストを終えた後は、あらかじめ設定した基準を満たしているか、目的に応じた合格ラインに達しているかを客観的に判断する必要があります。
テストの成否については、例えば以下のような基準に基づき判断されます。
- 重大度の高いバグがすべて解消されている
- テストケースの実行率が90%以上(事前に定めた割合)に達している
- ユーザー受け入れテスト(UAT)での承認が得られている
これらの基準を満たしていれば、リリースに向けた準備が整っていると判断できます。逆に、基準を曖昧にしたまま進めると、品質リスクを残したまま出荷してしまうことにもなりかねません。
テストの評価手法(バグ密度、カバレッジ、テスト完了基準)
テストの効果は客観的な指標を用いて評価される必要があります。代表的な評価指標として、以下の3つが挙げられます。
- バグ密度
一定のテストケース数やコード量あたりに見つかったバグの件数を示す指標。密度が高い部分はリスクの高い領域として重点的な対応が求められる - コードカバレッジ
テストで実行されたコードの割合を測る指標。特に単体テストで活用され、条件分岐やループ処理など、あらゆるパスを網羅できているかを確認する - テスト完了基準
テストを終了してよいタイミングを判断するためのルール。「重要な機能すべてに対して合格」「致命的な不具合がゼロ」など、事前に明確な基準を定めておくことで、テストの妥当性とタイミングを適切に管理できる
こうした指標をもとにテストの評価を行うことで、感覚に頼らない定量的な判断が可能になります。
初心者が押さえておきたいソフトウェアテストの基礎と入門知識
ソフトウェアテストは一見地味な作業に見えるかもしれませんが、論理的な思考や技術的な視点が求められる奥の深い領域です。ここからは、ソフトウェアテストの初心者の方が最初に学ぶべき知識と、現場で役立つ基礎スキルについて解説します。
基本的なテストの手法
テスト設計を始める際、以下の基本的なアプローチを知っておくと効率よく網羅的なテストができます。
- 境界値分析
許容範囲の上限および下限付近の値でテストを行う。例えば、入力可能な数値が1〜100なら、0、1、100、101などの境界値でシステムの挙動を確認する - 同値分割
似た性質を持つデータをグループ化し、各グループから代表的なデータを選んでテストする。すべての値をテストする必要がなく、効率的にカバレッジを高められる - 状態遷移テスト
システムの状態が操作順序や条件によって変化する場合に有効。例えば、ログイン状態によって表示内容が変わるといったケースで、有効な状態遷移と無効な状態遷移を検証する
さらに、バグを見つけた際の報告の仕方も重要です。単に「動かない」ではなく、再現手順・発生環境・期待結果・実際の結果などを明確に伝えることで、開発者が迅速に対応できるようになります。
ソフトウェアテストに必要なスキルセット
ソフトウェアテストに関わるエンジニアには、いくつかの重要なスキルがあります。なかでも特に以下の2つの力は、現場で非常に重宝されます。
- 論理的思考力
複雑な業務ロジックや分岐が多いシステムでも、抜け漏れなくシナリオを構築するためには論理的思考力が必要です。具体的には、条件の組み合わせを整理したり、原因と結果の関係を把握したりする能力が重要です。 - テストツールの活用力
近年は、テストの一部をツールで自動化するケースも増えています。UIテストやE2Eテスト、APIテストなどの自動化ツールを適切に使いこなすスキルを身につけることで、工数削減とテストの信頼性向上を同時に実現できます。
これらのスキルは、経験を積みながら徐々に向上させていくものです。基本的なテスト手法の習得からスタートし、実践を通じて専門性を高めていくことをおすすめします。
ソフトウェアテストの進化とトレンド
ソフトウェア開発の高度化とスピード化に伴い、テストにも新たな技術と考え方が求められるようになっています。従来の人手による丁寧な検証に加えて、AIや自動化、開発工程との連携を視野に入れた品質保証(QA)の進化が注目されています。
最後に、今後注目すべきソフトウェアテストの3つの重要トレンドを取り上げ、現場での変化と必要な備えについて解説します。
AIを活用したテスト
近年急速に発展しているAIツールは、ソフトウェアテストの分野でも活用範囲が広がっています。これまで人手では困難だった異常検知やテストデータの最適化において、AIが高い効果を発揮し始めています。
例えば、過去の不具合情報をAIに学習させることでバグの発生しやすい箇所を予測したり、ログや画面挙動から異常パターンを自動で検出したりできるようになりました。これにより、テストの精度と速度の両方を大幅に向上させることが可能になっています。
テスト自動化
開発スピードが求められる現場では、すべてのテストを手動で行うアプローチには限界があります。そのため、特に繰り返し実行される作業を中心に、可能な部分は自動化していくことが望ましいでしょう。
テスト自動化ツールを導入する際は、プロダクトの特性を踏まえた戦略的なアプローチが必要です。
効果的な自動化を実現するためには、次のような点に注意しましょう。
- 回帰テストや仕様変更の少ない安定機能から優先的に自動化に取り組む
- 自動化に必要なツールやスクリプトの保守コストをあらかじめ見積もっておく
- 開発フロー(CI/CD)との連携を前提に計画し、継続的な品質確保の仕組みを構築する
これらのポイントを押さえた自動化戦略により、高い投資対効果を実現できます。
品質保証(QA)の役割の変化
ソフトウェアの品質保証(QA)は、これまで開発後半に行う「確認作業」という位置づけでした。しかし近年では、「品質は初期段階から作り込むもの」という考え方が広まり、QAの役割も大きく変化しています。この新しいアプローチは「Shift Left Testing(シフトレフトテスティング)」と呼ばれています。
シフトレフトでは、要件定義や設計段階からQAが積極的に関与します。早い段階で仕様の曖昧さや設計上のリスクを早期に発見・是正することで、後工程での手戻りを大幅に減らし、プロジェクト全体の効率化と品質安定化を実現します。
効果的なソフトウェアテストの実践を
ソフトウェアテストは、単に不具合を見つける作業ではなく、ユーザー満足度やビジネスの信頼性、さらには開発効率にも大きく関わる重要な工程です。効果的なテストを実践するには、開発の目的やシステム特性に応じた適切なテスト戦略の構築が不可欠です。
また、AIや自動化ツールといった新技術を積極的に取り入れながら、品質保証のプロセスを組織的に進化させていくことも重要です。テクノロジーの変化に合わせて、テスト手法やスキルも継続的に更新していくことが求められます。
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