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ソフトウェアテストのアウトソーシングがもたらす好循環

ソフトウェア開発において、顧客の信頼を得るために欠かせないのがQA(品質保証)です。しかし、多くの開発現場では、リソース不足のために十分なテストを実施できていない現状があります。
こうした課題に対する解決策の一つが、ソフトウェアテストのアウトソーシングです。
専門企業にテスト業務を委託すれば、短期的にはリソース不足の解消と品質向上が期待できるほか、長期的には自社にナレッジやノウハウが蓄積することによるQA組織の強化や、プロダクトの魅力が向上することによる売上拡大といった効果が期待できます。
本記事では、ソフトウェアテストのアウトソーシングがもたらす好循環について、複数のケーススタディとともに解説していきます。
目次
ソフトウェア開発現場が直面しやすいテストの問題

まずは、ソフトウェア開発現場が直面しやすいテスト業務に関する問題を5つ紹介します。
1. 開発チームがテスト対応に追われ、開発の時間を確保できない
多くの現場では、エンジニアが本来の開発業務に加えてテスト業務も兼任しています。テスト工程は開発全体の約3分の1もの時間を占めるケースも多く、開発チームにとっては大きな負担になりがちです。
このような状況下では、開発者が設計・実装といったコア業務に十分な時間を割けず、結果として開発のスピードダウンや事業の停滞を引き起こすリスクが高まります。
2. リリース後の不具合が増加している
開発担当者自身がテストを担当すると、「自分の書いたコードは正しく動作するはず」という無意識の先入観により、テスト項目の抜け漏れが発生しやすくなります。この傾向は、長期間同じ担当者が開発・テストを実施するほど顕著になります。
こうした主観的バイアスは、開発後期での大幅な修正(手戻り)やリリース後の不具合発見につながり、プロジェクトスケジュールの遅延を引き起こします。さらに、リリース後の不具合は顧客満足度とサービスへの信頼を大きく損ない、最終的には売上減少を招く要因にもなり得ます。
3. 非機能要件テストに対応できる人材がいない
性能テストやセキュリティテスト、UI/UXテストといった非機能テストには、特殊なツール操作やインフラ構築、セキュリティ対策に関する専門知識が不可欠です。
開発エンジニアはコード実装のスキルに長けている一方、非機能テストの専門領域までカバーしていることは稀です。そのため、開発担当者がテストも兼任している現場では、非機能テストを十分に実施できないまま製品がリリースされるケースも少なくありません。
4. テストドキュメントの整備が進んでいない
属人化やテストの抜け漏れを防止するには、必要なテストケースを網羅したドキュメントが必要です。しかし実際の開発現場では、ドキュメントが不完全であったり、形骸化したりしている状況が頻繁に見られます。
特にアジャイル開発の現場では、短いサイクルで開発とテストを繰り返すなかで、素早い機能の実装と早期リリースが優先され、ドキュメント整備が後回しにされやすい傾向にあります。
こうしたドキュメントの不備は、テスト知識の属人化を促進し、担当者が変わるたびにテスト品質にばらつきが生じる原因となります。さらに、テストの再現性が低下することで、結果として見逃されるバグの増加にもつながります。
5. 自社で実施しているテストの内容に不安がある
テスト業務は基本的に社内で完結し、他社の実践例を目にする機会がほとんどありません。そのため、専門のテストエンジニアが社内にいない組織では、多くの担当者が「これで本当に大丈夫なのか」と、自社のテスト手法に不安を抱えています。
性能テストの条件設定、テストケースの考え方、ドキュメントの作り方など、テスト全般の妥当性に確信が持てないまま業務を進めている場合、潜在的なリスクの見落としや不十分な検証につながることもあります。
テスト業務をアウトソーシングすることで生まれる好循環

ここからは、テスト業務を専門の業者にアウトソーシングすることで生まれる短期的・中期的・長期的な成果について詳しく見ていきましょう。
短期的に生まれる成果
テストアウトソーシングによる短期的な成果の代表例としては、主に次の点が挙げられます。
・品質の向上
第三者QA専門チームによる客観的な視点でのテストにより、開発者の思い込みによる見落としが減少。また、専門会社のテスト知見と客観的な視点を取り入れることでより網羅性の高いテストが可能になる
・開発チームの負担軽減
開発者は設計や実装といったコア業務に集中できるようになるほか、開発リソースを柔軟に配分できるようになる
・リソースの有効活用
テストに使っていた時間とリソースを、新規プロジェクトの立ち上げや重要機能の開発といった事業価値を生み出す活動に活用できるようになる
こうした初期効果は、この後の中長期的な改善につながっていきます。
中期的に生まれる成果
専門的なノウハウを持った事業者へのアウトソーシングは、中期的には組織の品質基盤を強化します。
・テスト資産の体系化
テスト専門家による体系的なドキュメント整備により、個人依存のテスト管理から脱却し、組織全体で活用できる共有資産が形成される
・高度な品質保証の実現
負荷テスト、セキュリティテスト、互換性テストなど、専門知識が必要な非機能テストが実施できるようになり、従来は見落とされていた潜在的な問題点が事前に発見・解決される
・開発プロセスの改善
品質基盤の確立によりリリース後の緊急対応が減少し、開発チームは自動テスト導入やCI/CD環境整備といった本質的な改善に取り組めるようになる
・組織の品質マインド醸成
QA専門家との協働を通じて、効果的なテスト手法や考え方が社内に浸透し、組織全体の品質向上能力が徐々に強化される
長期的に生まれる成果
テストアウトソーシングを継続することで、長期的には組織に次のような変化が現れます。
・組織の柔軟性・耐性の向上
テストプロセスの標準化により、特定担当者への依存度が低下し、人材の異動や退職に影響されない安定した品質保証体制が確立される
・革新的開発への注力
短期的な負担軽減から始まった開発リソースの最適化が定着・発展し、チームはより挑戦的な革新的開発に取り組めるようになる
・ビジネス成果の向上
リリース後の不具合減少によりユーザー満足度が向上し、クレーム対応コストの削減、リピート率の向上、口コミによる新規顧客獲得といった好影響が生まれる
・総合的なコスト効率化
テスト精度向上による手戻りの減少と効率的な開発プロセスの確立により、長期的には総合的なコスト削減効果が現れる
このように、ソフトウェアテストのアウトソーシングは短期的な負担軽減策にとどまらず、中長期的な事業成長と競争力強化のための戦略的投資として機能します。
テストアウトソーシングが好循環につながった企業のケーススタディ
ここからは、テストアウトソーシングが好循環につながった企業の事例を紹介します。事業会社から受託開発会社まで、事業形態を問わず、アウトソーシングが中長期的な成果に結びついています。
プロダクトの開発規模が拡大し、テスト人員の強化が課題だったケース
クラウド録画型映像プラットフォームを提供するセーフィー株式会社は、急速な開発規模拡大により「テスト人員不足」という典型的な”成長痛”に直面していました。
同社では、AGESTにテスト業務を依頼することで、まずリソース不足という目前の課題を解消。そこから一歩進んで、テスト内容や設計プロセス自体の改善にも着手できるようになりました。
この取り組みは単なる人手不足の解消にとどまらず、より強固な開発体制の構築へと発展し、最終的には新たな価値創造に注力できるプロダクト開発フェーズへの移行を実現しました。
ユーザー数の増加に伴い、QA体制の課題に直面したケース
店舗マネジメントツールを提供するHataLuck and Person株式会社では、機能拡充とユーザー数急増により、既存のQA体制では増加する検証項目や頻繁なリリースに対応しきれない状況となっていました。
同社はAGESTのソフトウェアテストサービスの利用により、頻繁なリリースサイクルに対応できる柔軟なテスト体制を確立。不具合の事前検出率が向上し、開発プロセスの安定化とユーザー信頼の獲得という好循環を生み出すことに成功しています。
開発エンジニアがテスト業務までを担当し、負担が増加していたケース
組み込みソフトウェア開発を手がけるソーバル株式会社では、開発エンジニアがテスト業務まで一手に担っており、機能追加の度に負担が増大する状況でした。
AGESTのアジャイルテスト支援サービスを利用開始後、同社の開発メンバーは本来の設計・実装業務に集中できるようになり、プロジェクト全体のワークフローを効率化させることに成功しました。さらに、テスト専門知識を持つエンジニアの参画により、これまで見過ごされていた潜在的な不具合も発見できるようになり、リソース最適化と品質向上の両立を実現しています。
テストアウトソーシングで開発とQAの進化を加速させる
テストのアウトソーシングは、単なる負担軽減策ではなく、品質向上と業務効率化を実現する戦略的な投資ともいえます。
この取り組みは、開発リソースの解放という即効性のある効果に始まり、徐々に品質の安定化、組織能力の向上、そして最終的には事業成長へとつながる持続的な「好循環」を生み出します。
開発チームが本来の業務に集中しながら品質を向上させるための第一歩として、テストのアウトソーシングを検討してみてはいかがでしょうか。