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テスト体制構築の理想と現実

短納期や品質向上の要求が高まるなか、ソフトウェア開発現場ではテストリソース不足が深刻な問題となっています。
また、理想的なテスト体制を構築するべく人材の採用や育成を試みるも、現実的にはテストマネージャー・テスト設計者といった専門的なスキルを要するポジションを担える人材の確保が難しく、テスト体制の強化がなかなか上手くいかないケースも多く見られます。
本記事では、テスト工程に関わるそれぞれのポジションに焦点を当てながら、それぞれに求められるスキルや経験、リソース不足が引き起こす問題と解決策について詳しく解説します。
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目次
3つの人的テストリソース

テストリソース不足に直面した際は、まず自社にどのポジションを担う人材が不足しているのかを正確に把握することが重要です。はじめに、テストマネージャー・テスト設計者・テスト実施者の3つの主要なポジションが果たす役割と、それぞれに求められるスキルや経験について解説します。
テストマネージャー
テストマネージャーは、プロジェクト全体の品質保証を統括するポジションで、計画立案から進行管理、リスク評価まで、幅広い責務を担います。テストマネージャーが開発における品質保証を満たすためのテスト戦略を策定し、テストの進捗を常に監視することで、品質の維持とプロジェクトの円滑な推進を実現できます。
【主な役割】
- テスト計画の策定と進捗管理
- リスク評価と適切な対応策の検討
- 開発チームや関係者との調整
【求められるスキル・経験】
- プロジェクト管理および品質保証の知識・経験
- スケジュール管理とリスク管理のスキル
- 開発チームとの調整力とコミュニケーション能力
- 開発プロセスやテストに必要な観点への理解
テストマネージャーには、開発チームと連携しながらテスト工程全体をスムーズに進行する管理能力が求められます。また、テストの優先順位を適切に設定する判断力や、リスク管理、リソース配分のスキルも必要です。多くの現場では、開発のプロジェクトマネージャーやテスト設計者がテストマネージャーを兼任しているケースが見られます。
テスト設計者
テスト設計者は、品質に関する基準を考慮しながらテスト項目を作成・精査するポジションで、仕様変更に応じたテストの見直しまでを担当します。テスト設計者がテスト項目の粒度や視点を整え、開発チームと調整しながらテスト設計をおこなうことで、テスト観点の統一性を確保できます。
【主な役割】
- 仕様に基づいたテスト設計書の作成とテスト項目の精査
- 開発チームと連携し、適切なテスト観点を設定
- 仕様変更に応じたテスト設計、テスト項目の見直し
【求められるスキル・経験】
- 十分なテスト・開発の実施経験
- 二因子間網羅、ペアワイズ法、同値分割法など、専門的なテスト技法への理解
- 品質に関する基準を考慮したテスト項目の設計能力
- ドキュメント作成および開発チームとの連携スキル
設計の精度はソフトウェアの品質に直結する要素であり、設計者には論理的思考力や分析力が求められます。また、最小限の工数でテストの網羅性を確保するためには、幅広いテスト技法を適切に活用するための、技法への理解や現場経験も必要です。
テスト実施者
テスト実施者は、テスト項目に基づいてソフトウェアの品質を評価し、不具合を検出するポジションで、修正後の再テストまでを担当します。テスト実施者が仕様通りの動作確認だけでなく、経験や勘を活かしたアドホックテストや探索的テストをおこなうことで、潜在的なバグの発見につなげられます。
【主な業務】
- テストケースの実施と結果の記録
- 不具合の報告と開発チームとの連携
- 修正後の再テスト(リグレッションテスト含む)
【求められるスキル・経験】
- アドホックテストや探索的テストの経験
- 不具合の再現条件を明確に記録し、開発チームが迅速に対応できる形で報告する能力
- テスト環境の変化や制約を理解し、それに応じた適切なテストを実施する能力
テスト実施者の不具合検出精度は開発の品質に直結します。不具合の発見だけでなく、その再現条件を正確に記録し、開発チームが修正しやすい形で報告するスキルも必要です。
テストリソース不足が引き起こす問題

テストリソースが不足すると、プロジェクトの進行に大きな影響を与えます。テストマネージャー・テスト設計者・テスト実施者のいずれかが不足した場合、それぞれ異なるかたちで品質保証のプロセスに問題が生じ、最終的な品質低下やコスト増加にもつながります。
テストマネージャーの不在
テストマネージャーが不在の場合、テストプロセス全体の管理が個人の裁量に依存し、統一された戦略のもとでの検証が困難になります。優先順位の判断が遅れ、リソース配分が適切におこなわれなければ、スケジュールの遅延リスクが高まります。また、仕様変更への対応が不十分になると、リリース後の不具合増加や修正コストの上昇にもつながります。
テスト設計者のスキル不足
テスト設計者のスキルが不足している場合、テスト項目の作成や精査が不十分となり、重要な観点の見落としが発生しやすくなります。その結果、仕様の抜け漏れが増え、重要な不具合を検出できないままリリースされるリスクが高まります。また、テスト項目書の品質低下や、テスト設計者の考慮漏れによる前提条件の不足は、テスト実施の工数増加や納期遅延、リリース延期にもつながります。
テスト実施者の工数不足
テスト実施者の工数が不足すると、計画されたテストを十分な時間をかけて実施できず、見落としなどのヒューマンエラーが発生するリスクが高まります。優先順位が低いと判断されたテストが後回しにされた結果、想定外の不具合がリリース後に発生することもあります。また、経験の浅いテスト実施者が対応することで不具合の再現条件の記録が不十分になり、開発チームへのフィードバックが適切におこなえない可能性もあります。
テスト体制構築の理想と現実

テスト体制を構築するには、適切な人材の確保と役割の明確化が不可欠です。しかし、テスト人材の採用や育成は現実的に難しく、開発者がテスト業務を兼任する企業、リソース不足による計画の遅延に悩む企業が少なくありません。最後に、理想的なテスト体制構築に向けた主なアプローチとその特徴をご紹介します。
配置見直し
開発者やテストエンジニアの配置を見直し、専任のテスト担当者を設置する企業は増えていますが、実際には上手く機能していないケースが少なくありません。
必要なスキルや経験を持つ人材が社内に見当たらないことも多く、開発者からテスト担当への配置転換をおこなっても、開発出身者が期待される役割を担いきれない状況が発生することもあります。
さらに、テスト専任者として配置された人材が、経験不足から効果的なテスト設計・テスト実施ができず、結果として品質保証の体制が形骸化してしまうリスクもあります。
採用 / 育成
配置の見直しによる体制構築が難しい場合、専門性の高いテスト人材の採用や育成をおこなうという選択肢もあります。しかし、これにも多くの困難が伴います。
テストマネージャーやテスト設計者として即戦力となる人材の採用は簡単にはいかないケースがほとんどです。また、優秀な人材は、その市場価値の高さから採用コストが高くなる傾向にあります。
さらに、採用担当者にもテストに関する一定の知識が求められます。テスト技法や品質保証の知識が不足していると、適切なスキルを持った人材を見極められず、ミスマッチが生じるリスクが高まります。結果として、採用後に期待していた業務を遂行できないケースも少なくありません。
社内での育成も一つの選択肢ですが、元々高度なテストマネジメント、テスト設計、テスト実施スキルを持った人が不足している企業では、育成しようにもできない場合があります。
外注
採用や育成には時間とコストがかかり、配置の見直しでは負担の偏りや、スキル不足による品質低下のリスクが避けられません。こうした課題を解決する方法として、テスト外注が有効な選択肢となります。
テスト外注サービスを利用すれば、費用が膨らむ一方で、専門知識を持つリソースを迅速に確保することができ、テスト設計や実施の効率化につながります。特に大規模なプロジェクトや短期間でのテストが求められる場合、外部の専門チームを活用することで、開発エンジニアのリソースを開発に集中させることができます。
ソフトウェアテストサービスの紹介
多くの企業が直面するテストリソースの課題に対して、本記事では各ポジションの役割と重要性、そして配置見直し・採用/育成・外注などの具体的な対応策を紹介しました。これらの選択肢を参考に、自社の状況に合わせた最適なテスト体制の構築を進めていきましょう。
AGESTでは、柔軟なリソース配分と高品質なテスト設計を通じて、ソフトウェアテストに関する課題解決を支援しています。
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