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ソフトウェア開発におけるクオリティマネージャー(QM)とは?その役割や重要性・将来性について
更新:2024.03.04
クオリティマネージャー(Quality Manager 略称:QM)という職種をご存じでしょうか?
その名の通り、品質を保証(Quality Assurance)する責任を持った専門家です。
この記事では、ソフトウェア開発におけるQMにスポットを当てて解説します。
目次
クオリティマネージャーとは?
ソフトウェア開発の世界では、クオリティマネージャーの役割は多岐にわたり、また重要な役割を担っています。
クオリティマネージャーは、ソフトウェア製品、サービス、プロセスの品質保証(Quality Assurance)に直接的に関与しています。実際の業務では、初期開発フェーズから最終的な納品・運用までの広範な品質管理プロセスを監督しています。
クオリティマネージャーの職務の概要
クオリティマネージャーの主な目的は、開発されたソフトウェアが、企業や業界で決められた品質基準を上回っていることを確認することです。さらに、隠れた品質問題の特定、品質管理プロセスを改善するための施策の実行、ソフトウェアの性能と信頼性を阻害する可能性のあるエラーや欠陥の軽減にも責任を持ちます。
また、クオリティマネージャーは開発チームとステークホルダー(利害関係者)の間の重要な橋渡し役も担います。両者と積極的にコミュニケーションを取り、ユーザーからの重要なフィードバックを開発者へ伝えるだけでなく、プロジェクトの品質状況と進展についてステークホルダーが理解し、透明性が保たれるように活動します。
このようにクオリティマネージャーは、ソフトウェア品質の最高水準への妥協しない姿勢を持ち、プロジェクトの全過程に深く関わる役割を持った存在です。
クオリティマネージャーの重要性
前章で述べた通り、ソフトウェア開発の全過程に関わるクオリティマネージャーは、とても重要な役割を担っています。
この章では、クオリティマネージャーの重要性を具体的に見ていきましょう。
品質保証の重要性
ソフトウェアの品質は、完成した製品の成功を大いに左右します。バグや欠陥が存在すれば、ユーザーからの不満を引き起こし、企業の評判にも影響を与えます。クオリティマネージャーが率先して適切な品質保証活動を実施し、欠陥を未然に防ぐことで、これらのリスクを軽減できます。
デザインと仕様の合意の重要性
クオリティマネージャーは、要件定義やデザインの段階からプロジェクトに関与し、開発チームとステークホルダーが共通理解を持てるようにします。
これにより、初期段階での誤解を防ぎ、開発プロセス全体をスムーズに進めることが可能となります。
プロジェクトのコストとスケジュール管理の重要性
効率的な品質管理は、全体の開発コストおよびスケジュールにも影響を与えます。
後に直面するであろう問題を早期に特定し対処することで、その後のフェーズでの問題解決に費やす時間と労力を削減できます。クオリティマネージャーは、品質に関する問題がプロジェクトの予算やスケジュールにネガティブな影響を及ぼすことを防ぎます。
顧客満足度向上の重要性
クオリティマネージャーの働きは、顧客の期待を満たす高品質な製品の提供という形で最終的に顧客満足度に繋がります。
より良い品質の製品を提供することで、企業は信頼性を高め、顧客ロイヤルティを向上させることができます。
以上の点からも明らかなように、クオリティマネージャーはソフトウェア開発における品質保証だけでなく、プロジェクトの全体的な効率と成功に大いに寄与します。
クオリティマネージャーは今やソフトウェア開発に不可欠であり、その存在価値は計り知れないと言っても過言ではないでしょう。
クオリティマネージャーの主な仕事内容と役割
近年、品質管理が重要視されるようになった背景には複数の要因があります。
その一つとして挙げられるのが、開発プロセスが複雑化し技術が進化するにつれて、品質への要求が高まったことです。これまで通りの開発では品質の確保が難しくなり、その役割を担う人が必要になりました。これがクオリティマネージャーや品質保証(QA)エンジニアの役割を生んだ基盤です。
では、そのような役割を担うクオリティマネージャーが普段どのような業務に従事しているのか、この章では実際の業務をご紹介します。
品質計画と戦略の策定
クオリティマネージャーは、ソフトウェアの品質目標を設定し、品質に関する計画と戦略を策定します。これには、品質方針や品質目標の策定、品質管理手法やガイドラインの作成、品質保証活動の計画立案などが含まれます。
☑ 品質方針と目標の定義 ☑ 品質管理手法とプロセスの策定 ☑ 品質保証活動の計画立案 ☑ 品質ガイドラインや文書の作成 |
品質管理プロセスの確立
クオリティマネージャーは、組織内の品質管理プロセスを策定し、適切に実施するための枠組みを確立します。これには、品質規格や品質基準の策定、品質管理ツールやテクニックの導入、品質監査の実施などが含まれます。
☑ 品質規格や品質基準の策定 ☑ 品質管理ツールとテクニックの導入 ☑ 品質監査の実施と報告書の作成 ☑ プロセス改善の提案と実施計画 |
品質保証と品質管理の実施
クオリティマネージャーは、品質計画に基づいて品質保証活動を実施し、品質を確保する役割を果たします。これには、テスト戦略やテスト計画の策定、テスト設計やテスト実行の管理、不具合管理とその解決、品質データの収集と分析、リリース前の品質ゲートの設定などが含まれます。
☑ テスト戦略とテスト計画の策定 ☑ テスト設計とテストケースの作成 ☑ テスト実行と不具合管理 ☑ 品質データの収集と分析 |
品質改善の推進
クオリティマネージャーは、定期的な評価や検証を通じて品質の問題点を特定し、改善のための取り組みを促進します。これには、品質トレンドのモニタリング、品質改善提案の収集と評価、品質意識の向上のための教育やトレーニングの実施、プロセス改善やベストプラクティスの導入などが含まれます。
☑ 品質トレンドのモニタリングと報告 ☑ 品質改善提案の収集と評価 ☑ 教育とトレーニングの実施 ☑ プロセス改善とベストプラクティスの導入 |
チームとの連携
クオリティマネージャーは、開発チームや関係者とのコミュニケーションを通じて、品質に関する情報共有や意識の向上を図ります。これには、品質に関するミーティングや報告の実施、品質に関する相談やサポートの提供、チーム内での品質文化の醸成などが含まれます。
クオリティマネージャーは、継続的な品質向上を追求し、組織の品質目標の達成に貢献する役割を果たします。
☑ 品質に関するミーティングと報告書 ☑ 品質に関する相談とサポート ☑ 品質文化の醸成と意識向上の活動 |
クオリティマネージャーは日々このようなタスクをこなしています。
クオリティマネージャーを取り巻く職種
クオリティマネージャーを取り巻く職種には以下のような職種があり、チーム一丸となってプロジェクトの成功に向けて努力し続けています。
- 品質保証コンサルタント(QAコンサルタント)
品質保証技術やプロセスに精通し、専門的な知識を駆使してプロジェクトチームに助言を提供、ガイド役でもあります。 - プロジェクトマネージャー(PM)
プロジェクトの監督、進行管理、リソースの配置など、さまざまな管理業務をこなす。QMとは密に連携しています。 - 品質保証エンジニア(QAエンジニア)
ソフトウェアのテスト実施や、その結果に基づく品質改良の提案を行います。ソフトウェアの品質保証における重要な役割を果たします。
クオリティマネージャーに必要なスキルや経験・資格
ソフトウェア開発に携わっている方でも、クオリティマネージャーという職種にピンとこない方もいるかもしれません。また、「クオリティマネージャーって難しそう…」と考える方もいるでしょう。
とはいえ、同じソフトウェア開発に携わる職種ですので、クオリティマネージャーに必要なスキルは決して特別なものではありません。
近年はプロジェクトマネージャー(PM)経験者がクオリティマネージャーにステップアップすることも少なくありませんので、ここではクオリティマネージャーに必要なスキルや経験をご紹介します。
分析的思考力
クオリティマネージャーに必要な最も重要なスキルの一つが、数値や状況を分析して、論理的な結論や行動計画を導き出す能力です。具体的な問題解決に向けて、データをいかに解釈し、どう利用するかが重要となります。
円滑なコミュニケーション能力
クオリティマネージャーは開発チームやステークホルダーと頻繁にコミュニケーションを取るため、コミュニケーション能力が必要となります。関係者が理解しやすいように、複雑な情報を明確かつ簡潔に伝えることが求められます。
プロジェクト管理スキル
多数のプロジェクトやタスクを適切に進行管理し、必要なときに優先順位をつけて対処するためのスキルも欠かせません。ソフトウェア開発現場では、予期しない変化や調整が必要となることが頻繁にあるため、変動する状況を的確に把握し、プロジェクトをスムーズに進行させる管理能力が求められます。
テクニカルスキル
基本的なプログラミング知識や、ソフトウェアやハードウェアの一般的な理解があると大いに役立ちます。また、企業やプロジェクトによっては、特定の品質管理ツールやソフトウェアの経験を求められる場合もあります。
経験
多くの場合、企業はソフトウェア開発(要件定義、基本設計)、品質保証・テスト、プロジェクトマネージメント、または関連するフィールドでの数年の経験を持つクオリティマネージャーを探しています。先に述べたスキルを育て、実務経験を積むことは、この職種で成功するための大事なステップと言えます。
資格
クオリティマネージャーとして従事する際に、資格が必須となっている例は少ないようです。しかし、クオリティマネージャーを求める多くの企業では「取得することが望ましい資格」として以下の資格を挙げています。
■JSTQB(Japan Software Testing Qualifications Board)
ソフトウェアテスト技術者認定組織・JSTQBが実施している認定資格。国際的な認定組織ISTQBにも加盟しており、JSTQBのソフトウェアテスト技術者資格は海外でも有効となっています。
現在、以下の3つの資格認定を行っています。
- JSTQB認定テスト技術者資格 Foundation Level
- JSTQB認定テスト技術者資格 Advanced Level(テストアナリスト)
- JSTQB認定テスト技術者資格 Advanced Level(テストマネージャ)
クオリティマネージャーのキャリアパスと将来性
ここまでクオリティマネージャーの実業務についてご紹介してきました。ここではクオリティマネージャーのキャリアパスや将来性について考えてみましょう。
初級クオリティマネージャー
一般的に、多くのクオリティマネージャーは初めて組織で実務経験を積み始めるときには、初級クオリティマネージャーやJunior QMとなります。この段階では、監査、報告作成、簡単な問題解決などのタスクを扱います。
中級クオリティマネージャー
経験を積むと中級クオリティマネージャーになり、より大きなプロジェクトを手がけたり、自身のチームを率いたりする機会が増えます。品質管理の判断を下すなど、高度な職務も求められるようになります。
上級クオリティマネージャー
さらに経験を積むと、大規模プロジェクトの監督や組織全体の品質保証プログラムの設計・実施などを担当する上級クオリティマネージャーとなります。
品質保証コンサルタント、クオリティマネジメント部門マネージャー/ディレクター
最終的に、品質保証(QA)コンサルタントや企業のクオリティマネジメント部門のリーダー、マネージャーになる道もあります。これらの役職では、組織全体の品質方針を決定したり、品質管理計画の立案や実施に大いに関与します。
一方、特定の産業分野で特殊なスキルや経験を積んだ人は、その分野の専門家として活躍する道も開けます。製薬業界や金融、航空宇宙産業など、厳密な規制に対応するための深い知識と経験を求める分野では、特にその傾向が強くなっています。
以上は一般的なキャリアパスですが、クオリティマネージャーの経験は多くの分野で役立ちます。クオリティマネージャーという職種は、将来的には自分自身でキャリアパスを切り開くこともできる職種であると言えます。
今なぜクオリティマネージャーが求められているのか
テクノロジーが急速に進化する時代において、「クオリティマネジメント」や「品質管理」がますます重要視されるようになっています。その背景には、以下のような環境の変化が関与していると考えられます。
デジタルトランスフォーメーションの推進
社会全体がデジタル化に大きく動いている昨今、企業内部の業務プロセスはもちろん、プロダクトやサービスに至るまで、目まぐるしくデジタル化は進んでいます。
このような状況は、新たに生まれるソフトウェアやテクノロジーに対し、極めて厳格な品質基準を求めることにもつながっています。これらの要求を満たすためには、品質を管理すること、すなわちクオリティマネージャーの存在が不可欠となりました。
データ駆動型の意思決定の重要性
企業が仮説ではなく事実に基づいて意思決定を行うためには、「データ駆動型の意思決定」が重要となります。品質保証の世界でもこのトレンドはあり、データ駆動型の意思決定は問題の特定と対応を可能にするため、重要視されています。
データ駆動型の意思決定を適用できる品質保証コンサルタントやクオリティマネージャーは、将来的に高まる需要に対応することになるでしょう。彼らはデータを分析し、その結果が企業の製品にどのような影響をもたらすか理解することが求められます。また、得られた知見を他のチームメンバーが理解しやすい形で伝えられる能力も必要です。
より多くの「自動化」の必要性
企業のテクノロジー依存度が高まる中、自動化の必要性は引き続き増加すると考えられます。
クオリティマネージャーや品質保証コンサルタントは、自動テストツールにも精通し、効果的に使用する方法を心得て、導入を推し進める必要があります。
そのような専門知識を持つクオリティマネージャーの先導によりテストを自動化することができれば、企業は手動テストのニーズを減らし、時間とコストを節約することができます。さらに、製品が様々な条件下でテストされることを保証することで、製品の信頼性を向上させることができるのです。
ユーザーニーズの高度化
ユーザーは迅速な結果と完璧なパフォーマンスを求めています。このニーズを満たすために、ソフトウェアの「品質」は以前に増して重要な要素となりました。品質を管理・維持する役割はクオリティマネージャーが担っていますので、ここでもクオリティマネージャーの役割が大きいことがわかります。
法規制の厳格化
ビジネスがよりグローバル化するにつれて、コンプライアンス強化の動きが活発になっています。
これは、クオリティマネージャーなどの品質保証の専門家が、規制要件に強い理解を持つ必要があることを意味しています。彼らは、企業に適用可能なすべての法律や法規に準拠していることを確実にする必要があります。
また、特に医療、金融、自動車といった特定の業界では、製品やサービスに対する規制が一層厳格化しています。これらを遵守し、同時に高度な品質とプロセスの管理を保つため、プロジェクトでは常にクオリティマネージャーが求められています。
安全とセキュリティ
データ侵害やサイバー攻撃の増加に伴い、企業はより高度なセキュリティ対策を求められています。
製品の質が悪ければ重大なセキュリティホールからサイバー攻撃の標的になったり、情報漏洩したりといった事故にもつながりかねないため、「安全・セキュリティ」と「品質」は密接に関わっていると言えます。クオリティマネージャーは安全を確保する役割も担っているのです。
このように、デジタル社会で企業が生き抜くためにはクオリティマネジメントが必要不可欠になりました。社会がテクノロジーに依存する度に、クオリティマネージャーの重要性は一段と増し、それに伴い求められる能力は高まっていると考えられます。
クオリティマネージャーの魅力
さて、ここまでクオリティマネージャーの職務や将来性について書いてきましたが、この章ではクオリティマネージャーという仕事の魅力について紹介します。
大きな影響力:クオリティマネージャーが行う品質管理活動
一つのバグや問題が製品全体の質を大きく左右することは珍しいことではありません。クオリティマネージャーが行う品質管理活動は、製品やサービスがユーザーに好評を博すための大きな一歩と言えます。
強い需要:クオリティマネージャー職の求人増加
前章でも述べたように、品質管理は多くの業種で重要視されています。それは、求人市場でも明らかで、クオリティマネージャーの需要は年々高くなっています。
多様なキャリアパス:クオリティマネージャーの転職
クオリティマネージャー経験者のスキルセットは転職に有利で、さまざまな業種・職種へと進出できる可能性を秘めています。品質を確保するための理想的な手段を知っているQMは、ITのみならずエンジニアリング、製造業など多くの領域で活躍できます。
常に学び続けられる環境
テクノロジーは絶えず進化し続けるため、クオリティマネージャーは新しいトレンド、ツール、手法を学び続ける必要があります。これは、探求心旺盛な人にとっては大きな魅力となります。
大きな達成感
製品やサービスが市場で成功を収めたとき、その背後にある高品質なプロセスを作り上げることに大きく寄与する一人がクオリティマネージャーです。その達成感は計り知れないでしょう。
クオリティマネージャーの醍醐味は、大きな影響力を持つ職務に従事することで、自分の行動が製品やプロジェクトの成功に直接貢献しているという感覚を得られることです。仕事のやりがいや達成感を重視したい人にとっては、大変魅力的な職種と言えるのではないでしょうか。
まとめ:クオリティマネージャーを目指す方へ
ここまで述べてきた通り、クオリティマネージャーはソフトウェア開発の成功に欠かせない存在であり、その責任と影響力は大変に大きいものです。クオリティマネージャーが確保した品質は、最終的に企業の製品やサービスの質、そして顧客満足度に直結します。この観点から見れば、クオリティマネージャーの役割は企業全体、さらには業界全体においても重要な評価を受けるものと言えます。
もし現在プロジェクトマネージャー(PM)として従事している方が、より大きなプロジェクトで全体を見据えた活動を望むのであれば、クオリティマネージャーへのステップアップは理想的な選択肢です。プロジェクトマネージャーの経験と知識を活かして、製品やサービスを一段上の次元へ導く役割を担うことができるからです。
また、初めてのキャリア選択でクオリティマネージャーを目指したいと思う方は、まずは品質保証(QA)エンジニアとして従事することをお勧めします。未経験から技術的なスキルを獲得しクオリティマネージャーを目指すことは、今後の需要から見ても理想的なキャリアプランだと考えられます。