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ソフトウェアテスト

ブラックボックステストの検証項目と仕様書の書き方

ブラックボックステストの検証項目と仕様書の書き方

ソフトウェアテストの手法の一つであるブラックボックステスト。

基本的なテスト技法のカテゴリの一つですが、検証項目も種類も多岐にわたるため、正しく実施できているか不安のある現場も多いのではないでしょうか。

ブラックボックステストを通じた品質保証のためには、精度の高いテスト仕様書を作り、必要な項目を抜け漏れなく検証することが重要です。

本記事では、特に品質保証の基盤である単体テストに着目して、ブラックボックステストで確認すべき項目や、仕様書の書き方を解説します。

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ブラックボックステストで検証する項目

システムの内部構造を考慮せず、入力に対して期待通りの結果が出力されるかを確認するブラックボックステスト。

まずは、ブラックボックステストで検証する主な項目から見ていきましょう。

ブラックボックステストで検証する項目

機能要件

ブラックボックステストの最も基本的な役割は、機能要件の検証です。

入力データに対して仕様通りの出力結果を得られるか、各機能の入出力が期待通りかを確認します。例として、ECサイトの商品ページで購入個数を「1」と入力したときに、1つ分の合計金額が画面上に表示されるかといった検証が該当します。

エラー処理

機能要件に関連して、不正な入力やエラー条件に対する応答(異常系)の検証も欠かせません。

例えば、ECサイトの商品ページで購入個数に無効な値(負の数やアルファベットなど)を入力したときに、意図したエラーメッセージが表示されるかといった検証を行います。

また、ネットワークエラーやメモリ不足などの例外的な状況での動作確認も重要です。

UI/UX・実用性

入出力の正確性に加えて、「ユーザーにとって見やすいか」「使いやすいか」を表すUI/UXも、ブラックボックステストの検証対象です。

画面全体のレイアウトやボタンの配置、画面遷移といった視覚的要素や、操作感、離脱に繋がりそうなポイントなどを確認します。

なお、性能やセキュリティといった非機能要件の検証には、それぞれ専用のテスト手法が用いられますが、それらのテストでもブラックボックステストのフローが応用されます。

ブラックボックステストで検証しづらい項目

先述のとおり、UIなど多くの観点をカバーできるブラックボックステストですが、システムの内部構造を見ないテストである以上、ソースコード上のミスは発見できません。

また、基本的には用意したテストシナリオしか実行しないため、理論上あり得る分岐のうちどの範囲が網羅されているかを把握できないという欠点があります。

このようなブラックボックステストの限界を理解したうえで、ホワイトボックステストやコードレビューといった別の手法を組み合わせることにより、より包括的な品質保証を実現できます。

ブラックボックステストの仕様書に記載すべき項目と書き方のポイント

ここからは、効果的なブラックボックステスト実施に向けた仕様書作成の方法をまとめていきます。

ブラックボックステストの仕様書は、誰が実施しても同じ条件・手順・結果で再現可能な状態を保てるよう、必要な情報を抜け漏れなく記載することが大切です。

まずは主な記載項目を整理したうえで、わかりやすく書くための原則を解説します。

主な記載項目

一般的なブラックボックステストの仕様書には、次の項目が含まれます。

テストID
各テストケースを一意に識別するための番号

対象機能・処理
テスト対象となる具体的な機能や処理の名称

前提条件
テスト実行前に整えておくべき環境やデータの設定

入力値
テストで使用する具体的なデータや実行条件

確認方法
呼び出す関数や操作手順

期待結果
テストが成功した場合に得られるべき結果や動作

そのほか、プロジェクトの特性や開発チームの運用方針に応じて、「優先度」「関連する要件ID」などの項目も追加すると管理や追跡がしやすくなります。

わかりやすく書くためのポイント

仕様書作成で特に重要なのは、曖昧さを排除し、誰が読んでも同じ解釈ができる表現を使うことです。

具体例として、次の2つの記入例を見比べてみましょう。

曖昧な記述の例
商品をカートに追加すると、正常に処理される

具体的な記述の例
商品ID「P001」、数量「2」を指定してカート追加処理を実行すると、カートテーブルに1レコード追加され、画面に「商品をカートに追加しました」というメッセージが表示される

前者のような曖昧な表現では、テストの際に入力すべき項目・数値が定まっていないため、担当者によって進め方にばらつきが生じるおそれがあります。また、「正常に処理される」という文言も多義的で、実際は要件を満たしていないのにテスト成功と判断してしまう、といった事態を招きかねません。

一方、後者のように「使用するデータの値」「期待される処理内容」「画面表示の文言」などを具体的に記載すれば、テスト実行者による解釈の違いを排除し、不具合の検出を正確に進められます。

ブラックボックステストの仕様書の作成手順

ブラックボックステストの仕様書を効果的に作成するには、対象機能の整理からテストケース化までを順序立てて進めることが欠かせません。ここでは、ECサイトのカート機能を例に、仕様書を完成させるまでのプロセスを解説します。

ブラックボックステストの仕様書の作成手順

1. テスト対象とテスト観点・パターンの洗い出し

まず、テスト対象とする機能や処理を明確にします。そのうえで、「どの視点で確認するか」という観点を整理し、条件の組み合わせを決定します。

【例:「商品をカートに追加する処理」】

主要なテスト観点

  • 在庫管理との連携が正しく行われるか
  • カート内の重複商品は適切に処理されるか
  • 入力値の妥当性チェックは機能するか
  • エラー発生時の処理が正しく行われるか

これらの観点をもとに、具体的な条件の組み合わせを抽出します。

基本的な条件の組み合わせ

  • 在庫の有無(在庫あり/在庫なし)
  • カート内の状態(未追加/追加済み)

2. テンプレートの整備と記載ルールの策定

次に、洗い出した観点を整理し、テストケースを作成するためのテンプレートを用意します。記載ルールを明確にしておくことで、仕様書全体の統一性を保てます。

テンプレートの例

項目記載内容
テストIDTC_CART_001
対象処理商品カート追加処理
前提条件商品P001の在庫数:10、ユーザーのカート:空
入力値商品ID:P001、追加数量:2
期待結果カートテーブルに1レコード追加、在庫数が8に減少、成功メッセージ表示

記載ルールの例

  • 商品IDは「P001」「P002」のように統一した形式で記載
  • 数量は具体的な数値で指定(「複数個」ではなく「3個」)
  • データベースの変更内容も期待結果に明記
  • エラーメッセージは実際の文言を正確に記載

こうしたルールを徹底することで、実行環境による結果のばらつきを防げます。

3. テストケースの作成とレビュー

観点と条件の組み合わせをもとに、具体的なテストケースを作成します。カート処理では、次のようなケースが考えられます。

正常系の例

  • 前提条件:商品P001の在庫10、カート空
  • 入力条件:商品ID「P001」、数量「3」で追加実行
  • 期待結果:カートに商品P001が3個追加、在庫が7に減少、「商品をカートに追加しました」メッセージ表示

在庫不足の例

  • 前提条件:商品P001の在庫5、カート空
  • 入力条件:商品ID「P001」、数量「10」で追加実行
  • 期待結果:追加処理が実行されず、エラーメッセージ「在庫が不足しています」を表示、在庫数は変更なし

数量更新の例

  • 前提条件:商品P001の在庫10、カートに商品P001が2個入っている
  • 入力条件:商品ID「P001」、数量「3」で追加実行
  • 期待結果:カート内の商品P001の数量が5個に更新、在庫が5に減少

テストケースの作成後は、必ず第三者によるレビューを実施します。QAチームのメンバーのほか、対象機能に詳しい開発メンバーによるレビューを実施することで、曖昧な記述や観点の漏れを防ぎ、仕様書の精度を高められます。

ブラックボックステストの仕様書の運用性を高めるためのポイント

ブラックボックステストの仕様書は「作成して終わり」ではなく、継続的に改善・活用してこそ効果を発揮します。

最後に、運用性を高めるために意識すべき3つのポイントを解説します。

ブラックボックステストの仕様書の運用性を高めるためのポイント

レビュー内容の継続的な反映

レビューで指摘された曖昧な表現や、実際のテスト実行時に判断に迷った箇所については、その都度テンプレートや記述例に反映させていきます。定期的な振り返りを行い、テンプレートや記述ルールを改善することで、属人性を排除しながら精度と効率を高められます。

不具合事例の蓄積

発生した不具合事例は、修正履歴とともに記録・共有します。「在庫管理処理で同期処理の考慮漏れがあった」「権限チェックのテストケースが不足していた」といった事例を蓄積し、新機能の開発時に参照することで、より網羅性の高いテスト設計につなげていきます。

専門会社との連携も視野に

社内に仕様書作成のノウハウが不足している場合は、外部の専門企業に支援を依頼するのも一つの手です。

第三者の視点が入ることで、開発チーム内では気づきにくい思い込みや観点の抜け漏れを修正でき、仕様書の精度を高められます。特に、業務知識が深いチームほど「当然このように動くはず」という思い込みが発生しやすいため、外部の視点を取り入れることをおすすめします。

具体性の高いブラックボックステストの仕様書が、テスト工程全体を安定させる

機能テストの基本的な手法であるブラックボックステストの精度は、ソフトウェア全体の品質を大きく左右します。そのため、単体テストを抜け漏れなく実施するために、はじめは工数がかかっても、具体性の高い仕様書を作成することが重要です。

AGESTでは、ブラックボックステストを含めたテスト計画・設計の支援からレビュー体制の構築まで、現場の課題に応じた実践的なサポートを提供。専門的な知見を持つQAエンジニアが、各社の開発体制に適した品質保証プロセスの確立を支援します。

テスト品質の向上や仕様書運用の効率化をご検討中の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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