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ソフトウェアテスト

シナリオテストとは?定義や実施目的、品質向上のポイントを解説

ソフトウェア開発において、システム全体の流れを検証する「シナリオテスト」。

実際のユーザー操作を想定してテストを実施することで、単体テストや結合テストでは発見しづらい問題を事前に検出し、システムの品質向上につなげる重要な工程です。一方で、シナリオテストの目的や実施すべきタイミング、他のテストとの使い分けを十分に理解していない開発担当者は少なくないのではないでしょうか。

本記事では、シナリオテストの定義や目的、他のテストとの違い、適用すべきシステムや実施タイミングについて詳しく解説します。さらに、シナリオテストの作成手順や品質向上のポイント、効果的なテストを実施するための方法も紹介します。

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シナリオテストとは?

まずは、シナリオテストの定義や目的、ほかのテストとの違いや実施する場面について見ていきましょう。

シナリオテストの定義と目的

シナリオテストとは、ユーザーが実際にシステムを利用する流れを再現し、動作を検証するテスト手法です。単体テストや結合テストが個々の機能の動作を確認するものであるのに対し、シナリオテストはシステム全体の操作フローを重視します。

例えば、ECサイトにおいて「商品を検索し、カートに追加し、購入を完了する」といった一連の流れをテストすることで、機能単体の検証では見つけられない不具合を発見できます。

このように、システムの連携や業務フローの整合性を確かめることが、シナリオテストの大きな特徴です。

テストの目的

シナリオテストの実施目的は、大きく分けて以下の2つです。

1. ユーザー視点での動作確認

システムが意図した通りに動作するかどうかを、ユーザーの操作を再現しながら確認します。特に、UI/UXに関わる部分や、複数の機能が連携する場面では、ユーザーの体験に影響する問題が発生しやすいため、シナリオテストの実施が効果的です。

2. 業務プロセスの検証

企業向けの業務システムやワークフロー管理ツールでは、特定の業務フローが適切に処理されるかが重要です。例えば、受発注システムのシナリオテストでは「見積作成 → 承認 → 発注」といった業務の流れが正しく機能するかを検証し、実務で支障なく使えることを確認します。

シナリオテストと他のテストとの違い

テストシナリオとテストケース、シナリオテストと結合テストは似た概念でありながら、それぞれ異なる目的と特徴を持っています。ここでは、混同しやすい各用語の違いを解説します。

テストシナリオとテストケースの違い

シナリオテストを正しく理解するうえで、まずは「テストシナリオ」と「テストケース」の違いを明確にしておく必要があります。

テストケースとは、個々の機能や条件を細かく検証するためのテスト項目を指します。例えば、ECサイトにおいて「カートに商品を追加した際に合計金額が正しく更新されるかどうか」といった項目がテストケースとして記載されます。

これに対してテストシナリオは、ユーザーがシステムを利用する一連の流れを定義したものを意味します。例えば、「ECサイトでログイン → 商品を検索 → カートに追加 → 決済 → 購入完了」のように、実際のユーザーが使う一連の流れを想定した動作のセットがテストシナリオです。

テストシナリオは複数のテストケースを組み合わせたものであるといえます。テストシナリオを作成することで、個々の機能が連携した際の不具合を発見しやすくなります。

テストケースとは?基本的な作り方と押さえておきたいポイント

シナリオテストと結合テストの違い

シナリオテストと結合テストは、どちらも複数の機能が連携する場面を検証の対象としますが、それぞれテストを実施する目的が異なります。

結合テストは、機能間の連携が正しくおこなわれるかを確認するために実施されるテストです。例えば、ECサイトにおいて商品検索APIとカート機能のデータが正しく連携されているかを検証する作業が該当します。

一方で、シナリオテストは、一連のユーザー操作や業務フローを再現し、実際の動作を検証するために実施されます。

つまり、結合テストはシステムの内部構造やインターフェース間の整合性に焦点を当てるのに対し、シナリオテストはユーザー視点での体験全体を重視するテストであるといえます。こうした視点の違いから、シナリオテストではUI/UXもテスト対象に含まれます。

項目シナリオテスト結合テスト
目的業務フローやユーザー操作を再現し、実際の動作を検証機能間の連携が正しくおこなわれるかを確認
対象システム全体の一連の操作モジュールやAPIの連携
ECサイトで「ログイン → 商品購入 → 注文確認」の一連の流れを検証商品検索APIとカート機能のデータ連携が正しく行われるかを検証

シナリオテストを実施すべきシステムとタイミング

次に、シナリオテストが役立つケースおよび実施すべきタイミングについて解説します。

シナリオテストが役立つケース

シナリオテストは、複数の機能が連携するシステムや、業務フローが明確なアプリケーションで特に効果を発揮します。

例えば以下のようなケースが活用シーンとして該当します。

  • ECサイトの購入フロー(商品検索 → カート追加 → 購入 → 決済処理)
  • 業務アプリにおけるワークフロー(経費申請 → 上司の承認 → 支払い処理)
  • 金融システムにおける取引処理フロー(口座開設 → 入金 → 取引実行 → 出金)

これらのシステムでは、単一の機能が正常に動作していても、フロー全体でエラーが発生する可能性があります。シナリオテストを実施することで、単体テストでは把握しきれないエラーを発見し、早期対応につなげることができます。

実施すべきタイミング

システムの安定性を最終確認する工程であるシナリオテストは、次のようなタイミングで実施するのが理想的です。

  • システムテスト段階
    すべての機能が結合され、基本的な動作確認が完了した段階で実施
  • 運用前の最終確認
    本番環境に近い環境で、実際のデータを使用して実施

特に、ユーザーに影響を与えるシステム改修や大規模な機能追加の際は、リリース前のシナリオテストが不可欠となります。

シナリオテストの作り方と書き方

ここからは、シナリオテストの作成プロセスと、実際のテストケースの書き方について解説します。

シナリオテスト作成の流れ

シナリオテスト作成の具体的な手順は以下の通りです。

1. テストの目的と範囲を明確にする

まずはテストの目的と範囲を明確に定めます。

具体的には、対象となる機能や業務フローを定義し、それぞれについて確認する項目を設定していきます。

ECサイトであれば「ログインから決済完了までの流れ」、業務アプリであれば「経費申請から承認・支払い処理までのワークフロー」のように、解釈が一意に定まるように範囲を定義しましょう。

そのうえで、「機能が仕様通りに動作するか」「ユーザーが想定外の操作をした場合にどのような出力が表示されるか」など、確認すべきポイントを洗い出します。

明確な目的と範囲を定めることで、テストの網羅性を高め、想定外の動作や不具合を見逃さないテストの実施につなげられます。

2. ユーザーの操作シナリオを洗い出す

次に、ユーザーがシステムをどのように操作するかを具体的に想定し、シナリオを作成します。ユーザー像や目的を明確にしたうえで、一連の操作手順を書き出していきましょう。

例えばECサイトの場合、次のようなシナリオが考えられます。

  • ユーザー像:リピーター
  • ユーザーが達成したい目的:商品の購入
  • シナリオ
    • 1. ユーザーがログインする
    • 2. 商品を検索し、カートに追加する
    • 3. 注文情報を入力し、決済を行う
    • 4. 注文完了画面が表示される

ユーザーの心境を想像しながらシナリオを作成することで、テストの実用性を高めることができます。

3. シナリオごとの期待結果を設定する

各シナリオにおいて期待される動作を明確に定義し、テスト実施時に合否を正確に判断できる状態に整えます。

具体的には、次の3つの観点で確認ポイントを整理します。

  • 正常系
    仕様に沿った正しい入力・操作を行った場合、期待通りの動作がなされるか

  • 準正常系
    仕様内で無効とされる入力(例:必須項目未入力など)に対して適切なエラー表示がなされるか

  • 異常系
    仕様が想定していない挙動、または仕様の前提が満たされない状況において、システムが安全に対応できるか

例えば、ECサイトの購入フローにおけるシナリオであれば、次のように期待結果を整理できます。

ステップユーザーの操作期待される動作
1ユーザーがログイン正しいID/パスワードでログインできる
2商品を検索・カートに追加商品情報が正しくカートに追加される
3注文情報を入力し決済正しいカード情報で決済が完了する
4注文完了画面が表示される注文番号が発行され、注文履歴に反映される

このように期待結果を事前に定義することで、テスト時に問題が発生した際の原因特定がしやすくなり、円滑な修正が可能になります。

4. テストデータと環境を準備する

シナリオテストをスムーズに実施するために、事前に必要なテストデータや環境を整備します。

具体的には、以下のようなデータ・環境が必要とされます。

  • テストデータの準備
    • テスト用のユーザーアカウント(例:一般ユーザー、管理者アカウント)
    • テスト用の注文データ(例:在庫のある商品・在庫切れの商品)
    • 決済情報(例:有効なクレジットカード・期限切れのカード)
  • テスト環境の構築
    • 本番環境と同じ条件でテストできるステージング環境を用意
    • データベースの初期化(テスト実施前と後でデータを統一)

適切なデータと環境を用意することで、テスト結果の一貫性が確保され、正確な検証が可能になります。

シナリオテストの書き方

シナリオテストを書く際には、社内やチーム内でフォーマットを統一することが大切です。

フォーマットを統一することで、誰が見てもテスト内容が理解しやすくなり、テスト結果の管理を効率化することができます。

参考までに、AGESTがお客様に提供しているフォーマットを紹介します。

フォーマット例

No.シナリオ名前提条件操作期待結果実施状況備考
1商品購入ログイン済み商品を検索し、カートに追加商品がカートに正しく追加される 
2決済処理カートに商品ありクレジットカードで決済正常に決済が完了する 
3在庫切れ商品の購入商品在庫なし購入手続き「在庫切れ」のメッセージが表示される 

このように、「シナリオ名」「前提条件」「操作」「期待結果」などを明記したフォーマットを作成することで、誰が実施しても一貫したテストを実施することができます。

シナリオテストの品質を向上させるポイント

シナリオテストの品質を高めるには、テストの網羅性と管理の効率化が重要です。

最後に、例外パターンを含めたシナリオ設計の考え方や、テストケースとの適切な組み合わせ方について解説します。

網羅性を高めるためのシナリオ設計

シナリオテストを通してシステムの品質を確保するためには、正常系だけでなく、準正常系や異常系も考慮したシナリオ設計が不可欠です。

特に、ユーザー操作ミスに対する適切なエラー処理(準正常系)だけでなく、システムの前提条件が崩れた場合の想定外の挙動(異常系)にも対応できる設計が、実運用リスクを大きく低減させます。

以下では、ECサイトを事例に、典型的な異常系シナリオを紹介します。

例:ECサイトの異常系シナリオテスト

No.シナリオ名ユーザー操作期待結果
1利用中のアカウント停止購入手続き中に従業員がアカウント停止を実施セッションが切れ、次回操作時にエラーメッセージを表示する
2購入中商品の在庫切れ購入手続き中にバックエンドで商品を在庫切れに変更エラーメッセージが表示され、決済がキャンセルされる
3決済時の通信エラー決済時にネットワーク切断エラーメッセージが表示され、決済がキャンセルされる

このように、異常系も含め想定されるすべてのシナリオを網羅することで、システムの耐障害性やエラーハンドリングの適切さを確認し、実運用時のトラブルを未然に防ぐことができます。

テストケースと組み合わせて効率的に管理する

シナリオテストの品質を高めるためには、シナリオごとに適切なテストケースを紐付け、テストの抜け漏れを防ぐことも重要です。

具体例として、ECサイトの場合は以下のような組み合わせが考えられます。

例:ECサイトのシナリオとテストケースの組み合わせ

シナリオ関連するテストケース
商品を検索してカートに追加① 商品検索機能の動作確認 ② カート追加処理の動作確認
クレジットカード決済を行う① 決済APIの連携確認 ② 不正カード情報のエラーハンドリング
注文完了後、注文履歴を確認① 注文情報のデータベース登録 ② 注文履歴画面の表示

このようにシナリオごとに細かいテストケースを関連付けることで、テストのカバー範囲を明確にし、必要なテストが実施されていることを確認できます。

効果的なシナリオテスト実行を支援するAGESTのソフトウェアテストサービス

適切なシナリオ設計とテストケースの組み合わせにより、業務プロセスの整合性を確保し、予期せぬトラブルを未然に防ぐことができます。特に、例外パターンの考慮や適切なテストデータの準備をおこなうことで、より実用的で網羅性の高いテストを実施することが可能になります。

AGESTでは、シナリオテストを含む総合的なソフトウェアテストサービスを提供しています。経験豊富なテストエンジニアが最適なテストシナリオの設計から実施までをサポートし、開発チームとのスムーズな連携を実現。品質向上とテスト効率の最大化を支援します。

詳しくは、サービス詳細ページをご覧ください。

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