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テスト設計の精度を高める5つのポイント

ソフトウェアに求められる品質水準が高まるなか、テストの重要性も広く認識されるようになってきました。
一方で現場では、「テストを実施しているのに不具合が発生する」「経験の浅いメンバーが多く、実施内容の妥当性を判断できない」といった問題を抱える企業も少なくありません。
ソフトウェアテストには、開発とは異なる専門性が求められます。十分な品質でリリースするためには、必要なスキルや考え方を備えた人材によるテストが欠かせません。
本記事では、テスト品質を高めるために必要な視点や実践的な改善のポイントを解説します。
目次
テスト設計の精度改善が進まない理由
まずは、テスト品質の改善が難航する主な2つの原因について解説します。
ユーザーの実際の使い方を想定できていない
多くの開発現場では、「仕様書通りに動くか」を重視したテストが実施されています。
しかし、ソフトウェアの品質を確保するためには、仕様通りに動くかどうか(正常系)のテストのみでは不十分です。なぜなら、実際のユーザーは仕様書に記された通りに操作をするとは限らず、誤入力や意図しない操作など、開発時には想定されていなかった使い方をするケースが多くあるからです。
こうした「仕様書にない操作」に対するテストが抜け落ちていると、リリース後に不具合が発生するリスクが高まります。
テストプロセスが可視化されていない
テストプロセスの可視化も、テスト品質を高めるうえで欠かせない取り組みの1つです。
テスト品質を一定の水準で維持・改善を試みる際、「誰が・何を・どのように確認したか」といった情報が残っていなければ、後から検証や見直しを行うことが難しくなります。実際に、記録が残されていない、あっても各担当者の手元に分散しているといった事情から追跡が困難になるケースも少なくありません。
こうした状況下では、テストの属人化や抜け漏れも発生しやすくなり、品質保証の仕組みそのものが形骸化してしまう恐れがあるため、ドキュメントの整備が必要です。
テスト品質を担保するために必要なこと
テスト品質を高めるためには、単にテストケースを増やすだけでは不十分です。限られたリソースのなかで不具合の見落としを減らすには、テスト担当者に求められる視点やスキルを理解し、品質保証の仕組みを組織として整えておくことが重要です。

ここでは、テスト品質を担保するために押さえておきたい5つのポイントを解説します。
1. 仕様書に書かれていないことをテストする「ユーザー視点」
テスト品質を担保するうえで重要なのが、仕様通りの動作確認にとどまらず、ユーザーの使い方や目的に即した検証を行うことです。
実際のユーザーは、誤った手順や開発側が想定していない順序で機能を利用することもあります。こうした想定外の操作に対して、適切なエラー表示やガイドが用意されているかを確認する視点は欠かせません。
また、たとえ仕様通りに正しく動作していたとしても、「操作がわかりづらい」「実際の業務フローに合っていない」といった理由から、ユーザーに使われずに放置されるケースも少なくありません。
実際の利用シーンやユーザーの目的をふまえて、「誤操作にも配慮されているか」「目的達成までの導線がスムーズか」を見極める視点が、実用的な品質の確保につながります。
2. 先入観を持たずに検証する「第三者視点」
テスト品質を担保するためには、開発者の視点だけでなく、先入観にとらわれない第三者による検証を取り入れることも重要です。
開発者本人がテストを行うと、「これはこういう仕様だから問題ない」「この動きは想定通り」といった思い込みによって、曖昧さや違和感を見落としてしまうリスクがあります。一方、開発に関わっていない第三者は、仕様に対する思い込みがないため、よりフラットな視点で動作やUIの違和感を捉えることができます。
「この仕様は本当に適切か?」「ユーザーにとってわかりやすいか?」といった観点から確認することで、関係者が見落としていた課題を浮き彫りにすることも可能です。
3. 不具合情報のドキュメント化と管理
検証内容や結果を適切に記録・管理し、チームで共有できる状態にしておくことも重要です。
「どのような状況で」「何をテストし」「どのような結果が出たのか」を整理することで、検証の再現性が高まり、品質保証プロセスの改善にも役立ちます。
また、ドキュメントの形式や記載ルールをチーム内で統一しておけば、属人化や抜け漏れを防ぎ、情報共有の効率を高めることができます。
4. テストに関するリテラシー
共通の知識や判断基準をあらかじめそろえておくことも、テスト品質を保つうえでは欠かせません。
例えば、JSTQBなどの資格で学べるテスト設計の基礎知識は、現場での意思疎通をスムーズにし、属人性を減らすための共通言語として活用されています。
必ずしも資格を取得する必要はありませんが、マニュアルの整備や研修を通じてメンバー全体の知識レベルを一定に保つ工夫が求められます。
5. テスト実施者のスキルと適性
テスト実施は、開発業務に比べて「高い専門性を要さない」とみなされることが少なくありません。しかし実際には、テストを担当する人材にも独自のスキルや適性が求められます。
仕様書をもとにテストの目的を把握する読解力や、決められたスケジュール内で正確にテストを行う実行力、細かな違和感を見逃さない観察力といったスキルは、開発スキルとは異なる性質を持つものです。
こうしたスキルや感度は、たとえ開発経験が豊富であっても必ず備わっているとは限りません。
適性のある人材を見極めて配置することが、不具合の見逃し防止や品質向上につながります。
テスト項目の網羅性を高めるうえで直面する限界と課題
テスト設計における「網羅性」は、品質を確保するうえで欠かせない観点の1つです。
ただし、限られた時間や人手のなかであらゆるパターンを網羅するのは現実的ではないため、リスクの大きさや影響範囲を考慮しながら優先順位を整理する必要があります。
すべてをテストするのは現実的ではない
多くの機能を備えたソフトウェアの開発では、入力値のバリエーションや画面遷移のパターン、使用環境(デバイスやブラウザなど)、考慮すべきテスト条件が膨大になります。
例えば、「ユーザー登録」のような一見シンプルな機能でも、入力値の組み合わせ、バリデーションの挙動、通信状態、同時操作などの条件が組み合わさることで、数十〜数百のテストケースが必要になることもめずらしくありません。
限られた時間やリソースのなかで効率的にテストを進めるには、すべてのパターンを網羅しようとするのではなく、影響の大きい箇所から優先的に確認する判断力が求められます。
優先順位を判断する際は、過去のバグ傾向や変更範囲などを参考にしつつ、観点ごとにテスト項目を整理し、粒度と順番を意識して設計することが重要です。
そうすることで、限られた時間の中でも効果的にリスクをカバーできます。
観点の偏り・経験差による“見落とし”のリスク
テスト観点の設定は、担当者の業務経験や技術的なバックグラウンドに大きく左右されます。
例えば、インフラまわりの設計や運用経験がある人は、パフォーマンスやエラー処理といった技術的な安定性に着目しやすい一方で、業務アプリの開発経験が豊富な人は業務ロジックや導線設計に意識が向きやすい傾向があります。
こうした視点の違いは、チームに多様性をもたらす側面もあります。ただし、1人の担当者がテスト観点を組み立てる場合は、視野の偏りによってリスクのある箇所を見落とす可能性もあるため注意が必要です。
また、テストや開発の経験は、多ければ多いほどよいわけでもありません。経験が豊富な人ほど「これは問題にならないだろう」と思い込んでしまい、かえって見落としが生じることもあるからです。慣れによる見落としを防ぐため、経験のある人と、経験は浅くても先入観のない視点で確認できる人をバランスよくアサインすることも検討しましょう。
テスト品質は設計と体制で決まる
テストは単に「仕様書通りに動くかどうか」を確認する作業ではありません。
リリース後の不具合発覚を防ぐためには、「ユーザーがどのように製品を利用するか」を考えて、さまざまな角度から検証を行う必要があります。
開発者が想定していない操作までカバーし、現実的なリスクに備えるには、テストに関する知識・スキルを持ち合わせた人材と、体系的なプロセス設計が欠かせません。
AGESTでは、専門人材がテスト対象やリスクに応じて観点を洗い出し、テスト設計から実行、結果のレビューまでを担うことで、品質向上を支援しています。
自社プロジェクトのテスト工程に懸念を感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。