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上流工程からQA視点を取り入れることの重要性

スピードと品質の両立が求められるソフトウェア開発現場では「テスト工程でバグを見つければ良い」という考えのもと、開発の下流工程で品質担保しようとするケースが少なくありません。
しかし、品質向上の度合いが開発の後半に偏ると、バグの発覚が遅れ、修正や手戻りによるコスト増大、スケジュールの遅延、リリース後の不具合発生につながるリスクが高まります。
本記事では、上流工程でQAを取り入れるべき理由と、具体的な施策について解説します。
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目次
上流工程からQAを取り入れるべき理由
まずは、上流工程からQAを取り入れるべき理由について解説します。
QA活動が下流工程に集中することによって生じる問題

不具合を検出した工程別の手戻りコスト目安
本来、ソフトウェア開発において「品質」は最重視すべき要素です。しかし、多くの現場では“品質はテスト工程で担保するもの”という認識が根強くあります。その結果、要件定義や設計といった上流工程での品質の作り込みが不十分となり、不具合の原因となってしまうケースが少なくありません。こうした管理方法には、以下のような問題が伴います。
・バグ修正や手戻りによるコスト増大
テスト段階で仕様の根幹に関わる不具合が見つかると、設計の見直しや大幅な修正が必要になり手戻りコストが急増します。例えば、テスト段階でデータの不整合が発覚した場合、データ構造の変更に伴いテストのやり直しやマイグレーション作業が発生します。このように、手戻りによって修正対応の範囲が広がり、バグ修正にかかるコストが膨らむのは、下流工程で品質を管理しようとした場合によく起きる典型的な事象です。
・開発チームの生産性低下
設計段階で仕様が曖昧なまま進行すると、実装時にエンジニアが独自の判断で補完しながら開発を行うことになります。その結果、期待とは異なる動作が実装されてしまい、仕様の認識違いによるバグが多発しやすくなります。
本来想定していなかったバグ修正が増えると、リリーススケジュールに影響が出るだけでなく、他のタスクや別プロジェクトへのアサインにも支障をきたします。結果として、一つの不具合対応が他案件にも波及し、組織全体の生産性が連鎖的に低下するという悪循環を招く恐れがあります。
・リリース直前のバグによるスケジュール遅延や炎上リスク
最終テスト段階で重大なバグが発覚した場合、スケジュールが圧迫され、リリースの延期を余儀なくされる、リリース後に重大なバグが発覚するといったリスクが生じます。スケジュールを優先した結果このようなトラブルが発生すると、顧客やエンドユーザーからの信頼を損ねるだけでなく、追加のバグ修正やパッチ対応によりさらなるコスト増大につながります。
このように、品質管理を下流工程に依存することには大きなリスクが伴います。
上流工程でのQAがもたらす効果
上流工程からQA視点を取り入れられれば、リスクの低減が見込めるほか、開発中に想定されるリスクを事前に洗い出すことができることからテスト自体の精度を上げる効果も期待できます。例えば、数値の境界値画面遷移の整合性といった観点を事前に整理できると、テスト段階での手戻りが減り、健全なプロジェクト開発ができるようになります。
また、手戻りやバグ発生による無駄な工数の削減には、品質に割けるリソースを増やせるというメリットもあります。上流工程でQA視点を取り入れることは、単なるコスト削減ではなく、プロジェクト全体の成功につながる重要な施策なのです。
品質向上に向けて取り入れたい「シフトレフト」の考え方
ソフトウェア開発の現場では、品質リスクを早期に低減する「シフトレフト」という考え方が注目されています。
シフトレフトとは
シフトレフトとは、テストやレビュー、セキュリティ対策といった検証プロセスを、従来よりも開発の早い段階(工程図の左側)に移行させる考え方を指します。
シフトレフトの最大のメリットは、早期発見・早期修正によるコストの削減にあります。アジャイル・DevOpsのように頻繁なデプロイが求められる現代の開発環境では、問題の発見スピードがプロジェクトの成否を決定づけます。そのため、シフトレフトは今日のソフトウェア開発において不可欠な戦略といえるでしょう。
シフトレフトを実践するうえでの課題

シフトレフトの考え方は、多くの開発現場で認知されつつあります。しかし、以下のような課題から「重要だとわかってはいるが、実践できていない」という企業が多いのが実情です。
・変革への適応
シフトレフトの実践には、開発工程全体の見直しと、テスト・レビューを早期に取り入れる仕組みが求められます。しかし、常に納期に追われる開発現場や、ウォーターフォール型のプロセスに慣れた組織では、こうした変革に対して抵抗感が生じることがあります。
・専門人材の確保
上流工程でQA視点を取り入れるには、後の工程で発生し得る課題を予測し、対策を講じるための経験や知識が求められます。しかし、組織内に必要なスキルセットを持った人材が少ないことや、採用難易度の高さから取り組みたくても実行に移せないケースが少なくありません。
・ナレッジの標準化
経験の浅いエンジニアが多い企業では、QAのナレッジをドキュメント化し組織全体で共有できる仕組みを整えることが理想的です。しかし、プロジェクトごとに仕様や要件は異なるため、汎用性の高いドキュメントを作成するのは容易ではありません。その結果、QA業務は個人やチーム単位での属人的な運用になりやすく、組織全体での品質レベルの均一化が困難になっています。
このように、上流工程でQA視点を取り入れることは重要だと認識してはいるものの、実現に向けた課題に直面している企業は少なくありません。
上流工程で取り組むべきQA施策

次に、上流工程で取り組むべきQA施策と、実施する際のポイントを紹介します。
ドキュメントの品質確保
要件定義や設計フェーズにおけるドキュメントの品質は、開発成功の鍵を握ります。仕様書や設計書に曖昧な表現が含まれていたり、表記のゆれや構成の乱れがあると、読み手の理解にばらつきが生じ、手戻りや誤実装の原因になります。
【ドキュメント作成時の主なチェックポイント】
- 曖昧な言い回しや主語の省略など、読み手の誤解を招く表現がないか
- 用語や記述ルールが統一されているか(例:略語の使い方、強調のルールなど)
- 構成やフォーマットが整っており、視認性が高いか
- 誤字脱字や情報の抜け・矛盾がないか
- 参照先や引用元の記載が正確か
要件定義の精度向上
ドキュメントの中でも特に重要なのが要件定義です。実装者は要件定義書をもとに開発を進めるため、開発開始後に要件漏れが判明すると大きな手戻りが発生しやすくなります。クライアントとの認識違いや確認漏れにより仕様変更が繰り返されると、開発スケジュールの圧迫にもつながります。
【要件定義の精度を向上させるためのポイント】
- クライアントや関係者との認識を揃えるためのレビュー会開催
- 仕様変更時の影響範囲を明確にするプロセスの構築
- 過去の問題事例を活かした要件定義チェックリストの作成
工程移行判定の実施
開発プロセスの各フェーズで、次工程への移行条件を満たしているかを確認する「工程移行判定」 の実施も有効です。しかし、リリーススケジュールへのプレッシャーやリソース不足により、この判定プロセスが形骸化しやすい点には注意が必要です。
【工程移行判定のチェック項目例】
- 次工程に必要なドキュメントが用意されているか
- 未確定の仕様が残っていないか
- 関係者間の認識が統一されているか
上流工程で品質を作りこむためのポイント
上流工程でQAの視点を適切に機能させるには、プロジェクト単位の取り組みだけでなく、組織全体で以下のような取り組みを進めることも重要です。
開発とQAの連携強化
開発チームとQAの連携強化は品質向上の基盤となります。プロジェクトの初期段階からQAチームが参画することで、仕様の抜け漏れを防ぎ、開発途中で発生する変更点を確実にテスト工程まで引き継ぐことができます。
QA視点による要件定義書や設計書のレビューを実施することで、開発時の認識のズレを未然に防ぎ、手戻りリスクを削減する効果も期待できます。
QA専任者の配置
開発者だけがQA業務を担当すると、十分なテストやレビュー時間の確保が難しく、結果的に品質低下や手戻り増加を招きます。これを防ぐには、QAの専任者を配置し、品質管理を分業することが理想的です。ただし、専門人材の育成や採用が難しい場合は、外部のテスト専門会社のサービスを活用することも有効な選択肢となります。
メンバー全員のQA意識向上
長期的な視点では、「開発メンバー全員がQA視点を持つ」組織文化の醸成も重要です。QAの知見を持つ人材がプロジェクトに参画し、上流からQA視点が取り入れられることで、開発チーム全体の品質に対する意識が高まり、持続的な品質向上につながる効果も期待できます。
まとめ|上流工程のQA強化で開発の成功をつかむ
ソフトウェア開発において、上流工程でQAの視点を取り入れることは、単なるコスト削減にとどまらず、プロジェクト全体の品質向上と成功率の向上にもつながります。しかし、QAの専門知識やスキルを持った人材確保の難しさから、自社内だけで実現が難しいケースも少なくありません。
AGESTでは、ドキュメントインスペクションやQAコンサルティングを通じて、品質管理の仕組みづくりやプロセス改善を支援し、開発チームが効率的にQAを組み込める環境を構築します。
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