コードレビューとは|目的・手順・観点について解説

ソフトウェア開発において「コードレビュー」は、品質向上やバグの早期発見に欠かせないプロセスです。しかし、「なぜコードレビューが必要なのか?」「どのように実施すればよいのか?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、コードレビューの目的や種類、具体的な手順、質を高めるポイントについて詳しく解説します。また、コードレビューを効率化・自動化するツールについても紹介します。 本記事が業務改善の一助になれば幸いです。
目次
コードレビューとは
コードレビューとは、作成したコードを他の開発者がチェックし、品質向上を図るプロセスを指します。バグの発見、コードの可読性の向上、システムの保守性の確保などを目的とし、主にチーム開発で実施されます。適切なコードレビューをおこなうことでバグが少なく管理しやすいプログラムが作れるようになるため、中長期的な開発の効率改善にも役立ちます。
コードレビューを通じて問題を発見することで、後の修正コストを削減できるうえ、他の開発者が理解しやすいコードを書く習慣が身につきます。また、チームメンバー間でフィードバックをおこなうことで、プロジェクト内で統一されたコーディングスタイルを維持しやすくなります。
コードレビューの種類
コードレビューには、主に「同期型レビュー」と「非同期型レビュー」の2種類があります。
同期型レビュー | 非同期型レビュー | |
---|---|---|
特徴 | 開発者が同じ時間・場所に集まってコードを確認 | オンライン上でフィードバックと修正のやりとりをする |
メリット | 疑問点をその場でクリアにし、素早く問題を解決できる | 予定を合わせる必要がない、コメントや履歴が残る |
デメリット | 関係者のスケジュール調整が大変 | 急ぎの修正には不向き |
同期型レビューは、開発者が同じ時間・場所に集まり、コードを一緒に確認する方法です。例えば、ペアプログラミングでは2人の開発者が同じ画面を見ながらコードを確認し、ロジックの妥当性やコーディングスタイルについてその場で意見を交換します。また、ウォークスルーでは、コードの作成者が他の開発者に実装内容を説明しながら、設計の意図や懸念点について議論します。
この手法では、疑問点をその場で質問し、改善案をすぐに試せるため、素早く問題解決できます。ただし、関係者のスケジュールを合わせる必要があるため、時間調整コストがかかる点には注意が必要です。
一方、非同期型レビューは、GitHubのプルリクエスト(Pull Request)などを利用して、開発者が変更したコードをオンライン上で確認する方法です。レビュアーはコードの差分を確認しながら、気になる箇所にコメントを残していき、開発者はそれらのフィードバックに基づいて修正をおこないます。
この手法では、レビュアーが都合の良いタイミングでコードを確認でき、じっくりと内容を精査できるため、見落としが少なくなります。また、コメントや修正履歴が残るため、後から議論の過程を確認することもできます。ただし、レビュアーの返信を待つ時間が発生するため、急ぎの修正が必要な場合には向いていません。
それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるため、プロジェクトの規模やチームの文化に応じて、最適な手法を選択しましょう。また、日常的なレビューは非同期型、重要なコード変更時には同期型を取り入れるなど、両者を組み合わせた運用が効果的な場合もあります。
コードレビューの手順

効果的なコードレビューには、明確な手順に従った進行が欠かせません。ここからは、レビューの準備から完了までの具体的なステップを解説します。
1. コードの準備とルール設定
コードレビューをスムーズに進めるためには、事前の準備が肝心です。
コードの準備とは、開発者自身による事前チェックを指します。
準備の工程では、例えば以下のような項目について確認をおこないます。
- 実装した機能が要件通りに動作するか
- 異常値や例外的な入力に対する処理が適切か
- デバッグ用のコードや重複したコードが残っていないか
このような事前確認により、レビュアーは基本的なミスの指摘ではなく、設計の妥当性やコードの改善提案など、より本質的な議論に時間を使えるようになります。
一方、ルールの設定では、開発チーム内でコードの書き方の基準を定めます。
ルールの設定時には、以下のような基準を事前に決めることで、個々の開発者の判断に委ねない、一貫性のあるコードレビューを実施できるようになります。
- コードの形式(例:インデントやブレースの位置)
- 命名規則(例:変数名や関数名の付け方)
- コメントの書き方(例:どのような場合にコメントを書くか)
- 実装方針(例:推奨するデータ構造や処理方法)
このように、セルフチェックを徹底し、適切なルールのもとにコードレビューをおこなうことで、建設的なフィードバックを得る環境を整えることができます。
2. レビューリクエストの作成
コードの準備が整ったら、次にレビュアーへレビューを依頼します。レビューリクエストを作成する際には、内容を明確に伝え、レビュアーがスムーズに確認できるようにすることが重要です。
まず、コードの変更内容を簡潔にまとめ、何を修正・追加したのかを明記します。プルリクエスト(Pull Request)やマージリクエスト(Merge Request)を作成する際には、タイトルと説明文に具体的な変更点や意図を記述すると、レビュアーが背景を理解しやすくなります。
また、レビュー時に注目してほしい点や懸念事項があれば、明確に伝えましょう。例えば、「この処理のロジックが正しいか確認してほしい」「パフォーマンスの影響についてフィードバックがほしい」といった要望を記載すると、的確な指摘を受けやすくなります。
加えて、関連するチケットや仕様書のリンクを添えることで、レビュアーがコードの背景をより深く理解できるようになります。
このような点を意識すると、開発者は的確なフィードバックを得られるようになり、レビュアーはストレスなくレビュー対応できます。
3. レビュアーによるチェック
レビュアーは、提出されたコードを確認し、品質や仕様の適合性を評価します。チェックの際には、コードの変更規模や重要度に応じて、以下の観点を意識しながら確認を進めます。
- コーディング規約の確認
- ロジックの検証
- バグやエラーの特定
- 不要なコードの排除
- 処理の効率性確認(メモリ使用量や実行速度など)
- 影響範囲の評価
- 単体テストやデバッグの必要性判断
コードの品質を確保するためには、単なる構文のチェックだけでなく、設計や保守性の観点からも評価をおこなう必要があります。例えば、冗長な処理がないか、意図しない副作用を引き起こす可能性がないかを考慮することが求められます。
レビュアーには、指摘事項を明確に伝え、開発者と建設的な議論を交わしながらコードを改善していく姿勢が求められます。
4. フィードバックと修正対応
レビュアーは、コードの問題点や改善点を指摘し、開発者にフィードバックを提供します。フィードバックをする際は、単にエラーを指摘するのではなく、なぜ修正が必要なのかを説明し、理解しやすい形で伝えるようにしましょう。また、改善方法も合わせて提示すると、開発者が的確に修正しやすくなります。
また、否定的な表現を避け、建設的な指摘をすることも大切です。例えば、「このコードは間違っている」ではなく、「この処理をこう改善すると可読性が向上する」といった具体的なアドバイスをすると、開発者も受け入れやすくなります。
フィードバック内容について疑問点がある場合は、積極的に対話しながらよりよい解決策を模索する姿勢が双方に求められます。こうしたやり取りを通じて、コードの品質を高め、チーム全体の開発スキル向上にもつなげることができます。
5. マージ・コードレビュー完了
すべてのフィードバックに対応し、必要な修正が完了したら、コードをリポジトリに統合するマージのプロセスへ進みます。マージの前には、最終確認としてテストを実施し、意図した動作が保たれているかをチェックする必要があります。
マージの完了によってコードレビューのプロセスは一区切りとなりますが、ここで得られた知見を活かすことも重要です。コードレビューを通じて得た学びや改善点をチームで共有し、今後の開発に活かすことで、チーム全体でより洗練されたコードを作れるようになります。
質の高いコードレビューをおこなうための観点

コードレビューの質を向上させるには、単に誤りを指摘するだけでなく、コードの可読性や保守性、ロジックの正確性、セキュリティ、パフォーマンスなど、多角的な視点を持つ必要があります。
ここでは、コードレビュー時に重要な観点について解説します。
コードの可読性と保守性
コードの可読性を向上させるには、明確な変数名や関数名を使用することが重要です。
例えば、a = get(1,2,3) よりも userAge = getUserAge(1,2,3) の方が、処理の意図が伝わりやすくなります。また、コメント機能を活用し、コードの目的や意図を補足すると理解しやすくなります。
保守性を高めるには、重複を避け、共通処理を関数化することが有効です。
例えば、複数箇所で if user.role == ‘admin’ のチェックがある場合、それを isAdmin(user) 関数にまとめることで、変更時の影響範囲を抑えられます。
こうした工夫により、コードの管理がしやすくなり、長期的な開発がスムーズに進みます。
コードの正確性とロジックの妥当性
コードの正確性を確保するには、実装した機能が設計通りに動作しているかをテストを通じて確認することが重要です。特に、エッジケース(例:0や負の値など想定外の入力)に対しても正しく動作するかを検証し、期待する結果を返すかどうかを確認します。
一方で、ロジックの妥当性を保つためには、そもそもの処理の設計自体が適切かを見極める必要があります。たとえば、ユーザーの入力値がnullや空文字だった場合にどのような処理を行うべきかを事前に定義し、想定外の動作を防ぐためのエラーハンドリングを設計段階から考慮することが求められます。
セキュリティリスク
コードレビューでは、セキュリティリスクを未然に防ぐことも重要です。例えば、SQLインジェクション対策として、SELECT * FROM users WHERE name = ‘” + userInput + “‘ のような直接的な文字列結合は避け、プリペアドステートメントを使用する必要があります。
また、クロスサイトスクリプティング(XSS)を防ぐため、ユーザー入力をそのままHTMLに埋め込むのではなく、エスケープ処理を施すことが求められます。さらに、認証・認可の仕組みが適切に機能しているかを確認し、不要なAPIエンドポイントが外部に公開されていないかチェックすることも大切です。
パフォーマンスの最適化
コードのパフォーマンスを向上させるには、不要な計算の削減やデータ構造の適切な選択が欠かせません。例えば、リスト内の要素を検索する際、for ループを使うのではなく、set を用いることで検索速度を大幅に向上できます。
また、データベースクエリの最適化も重要です。SELECT * を使うのではなく、必要なカラムのみを指定することで、取得データ量を抑え、処理負荷を軽減できます。こうした最適化を意識することで、アプリケーションの応答速度を向上させ、システム全体のパフォーマンスを安定させることができます。
コードレビューを効率化・自動化させるためのツール
これまで解説した通り、コードレビューはソフトウェアの品質向上と開発チームのスキルアップに不可欠なプロセスです。しかし、開発チームにとって大きな負担がある業務でもあることから、効率化・自動化していくことが推奨されます。
ここでは、コードレビューの効率化・自動化に役立つツールを紹介します。
コードレビュー機能を備えたプラットフォーム
GitHubやGitLabなどの開発プラットフォームには、コードレビューを支援する機能が備わっています。プルリクエスト(Pull Request)やマージリクエスト(Merge Request)を活用することで、チームメンバーが変更内容を確認し、コメントや修正提案をおこなうことができます。
レビュアーはコードの変更差分を確認し、問題点や改善点を直接指摘できます。また、レビューの過程で「Approve(承認)」や「Request Changes(変更要求)」といったステータスを設定することで、チーム内の合意形成を円滑に進めることもできます。
さらに、自動テストやLintツールと連携させると、コードの品質を保ちながら迅速な開発を実現できます。これにより、手動レビューの負担を軽減しつつ、高品質なコード品質管理が可能になります。
Lintツール
Lintツールは、コードの静的解析をおこない、構文エラーやスタイルの統一を自動でチェックするツールです。代表的なものにJavaScript向けのESLint、Python向けのPylintがあります。
例えば、ESLintを使用すると、const foo = ‘bar’ のようなコードに対して、未使用変数やコーディング規約違反を検出し、修正を促します。同様に、Pylintは未定義の変数や不要なインポートを警告し、コード品質を維持するのに役立ちます。
これらのツールをCI/CDパイプラインに組み込むことで、開発者がコードをプッシュするたびに自動でチェックがおこなわれ、レビュー時の指摘を減らすことができます。これにより、コードレビューの負担を軽減し、より本質的なロジックの検討に時間を割けるようになります。
静的解析ツール
静的解析ツールは、コードの品質を総合的に評価し、潜在的なバグやセキュリティリスクを検出するツールで、コードの複雑性や保守性の評価も実施できます。代表的なものにSonarQubeやCodeClimateがあります。
例えば、SonarQubeを使用すると、循環的複雑度(Cyclomatic Complexity)を算出し、特定の関数やクラスが過度に複雑になっていないかを判断できます。CodeClimateは、重複コードの検出やテストカバレッジの可視化をおこない、コードの健全性を維持するのに役立ちます。
これらのツールを活用することで、コードレビューの前段階で潜在的な問題を特定でき、レビュアーがより重要な設計やアーキテクチャに集中できるようになります。また、CI/CDと統合することで、開発の早い段階で品質問題を把握し、修正の手間を削減できます。
AIを活用したコードレビュー
AIを活用したコードレビューは、開発者が記述したコードの品質を向上させる新しい手法です。ChatGPTやGitHub CopilotなどのAIツールを活用することで、コードのバグ検出やリファクタリングの提案を受けることができます。
例えば、ChatGPTはコードの意図を分析し、改善点やエラーの可能性を指摘できます。一方、GitHub Copilotは、開発中にリアルタイムで最適なコード補完を提案し、効率的なコーディングを支援します。
これらのAIツールを活用することで、開発者は迅速にコードの問題点を特定し、レビューの初期段階で修正を加えられるようになります。特に大規模なプロジェクトでは、AIによる自動レビューを導入することで手動レビューの負担を軽減し、品質の高いコードを効率的に維持しやすくなります。
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コードレビューは品質向上に不可欠なプロセスである一方、開発チームにとって大きな負担となりやすい側面もあります。レビューに時間を取られることで、新機能の開発が遅延したり、テスト工程が圧迫されたりするケースも少なくありません。
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